05

ドラルクさんから、私の落とした荷物を預かっているという電話がスマートフォンに来たときは、最近の吸血鬼はやけに進んでるのね、なんて感心してしまったのだ。
鞄から落ちた手帳に書いてあった連絡先を見て電話してきてくれたのだけど、本人もスマートフォンを使いこなしているらしい。

「おはよう〜!いい朝だな!私は日光に当たると死ぬからまだ朝日を見てないが!」
などとやたらと馴れ馴れしいトーンで一気に話しかけてきたあと、あとで荷物を届けるから住所教えてくれ、と聞いてくれる。

届けてくれるのはドラルクさんかぁ。と、一瞬黙り込んでしまう。
…サテツ君なら、もう私の家知ってるんだけどね。…なんて、せっかくの親切を…私ってば!と頭を振って不純な考えを追い払っていると、ドラルクさんが「…もし都合が悪いなら…ハンターズギルドに来てくれるか?」と提案してくる。

「ハンターが集まるバーの中にあるハンター組合でな。ロナルドとか……サテツとかも、よく使っているんだ」とボソリと言う。
……この人、何か察してたりしないよね?と思わず頬が熱くなるが、「…なら、来てもらうのも申し訳ないので伺います」とモゴモゴ言い訳がましく返事。

了解だ、と電話が切られたあと、すぐにピコンと鳴った私のスマートフォンのメッセージアプリには、ギルドの位置情報と吸血鬼を表しているらしい顔文字が届いていたので、到着時間を返信しながら、このハイテク吸血鬼…と思わず頬が緩んでしまったのだ。



ギルドの扉をくぐって中に入ると、ロナルドさんと、もう1人ポンチョ姿の男性の姿。
…そして、ちょうど振り返ってこちらを見るのは、サテツ君。その大きな身体に隠れて薄暗い場所をキープしているのはドラルクさんだ。

「あ、サテツ君」と手を小さく挙げて挨拶したあと、ドラルクさんと何やら話しているサテツ君を横目にとりあえずロナルドさんの元に。

「ロナルドさん、昨日はどうも」とお礼を述べてから、カウンターに座る男性のほうを見ると、カラン…と音を立ててグラスを掲げて、「俺はショットだ…」と自己紹介。何だかすごくクールで、きっと腕の立つハンターなんだろうなぁと感心して見てしまう。
「はじめまして。私は名前です。」と返すと、「…お近づきの印に一杯奢らせてくれ」とニヤリと口角を上げる。

その大人なご厚意に甘えて、「ありがとうございます!じゃあ、シャンディガフを…」と頭をペコリと下げると、ショットさんはニヒルな笑顔のまま「シャン……?」と固まっているので眉をひそめて彼のグラスを覗くと、そこには普通にクリームソーダが入っていて崩れ落ちそうになる。…下戸なのね!?
全くここのハンターはみんな中学生男子なの…?

そうこうしている間に、サテツ君が私の忘れ物の紙袋を持ってきてくれた。
「名前さん、これ…」と紙袋を前に出す。
「あ、サテツ君、昨日は…」と目を見合わせて、3秒停止。のち、「…ありがとう」と笑いかけた。
あれ?なんか、照れくさくなってしまう…。

そんな様子を敏感に察知して、「おい!やっぱり何かあったんだろう!」と歯ぎしりするショットさんを尻目に、もじもじしているサテツ君を見つめると、
「腕の人が何か言いたいようだ」とドラルクさんが遠くから声を上げる。
「…どうしたの?」とサテツ君を見上げると、「あのっ…」と思い切ったように口を開く。

「…あ、の、…よかったら一緒にどこかに遊びにいきませんか?」

ん…?

「あ、遊び…?」と戸惑っていると、ロナルドさんが思い切り「おいぃ!サテツ!何だよ小学生じゃないんだから!デートって言えよ!」と盛大な突っ込み。
「えっ?あっ…でも…だって別に付き合ってないからデートじゃない…」と慌てるサテツ君に、
「大馬鹿野郎!この年になって男女が二人で出かけたらデートなんだよ!」と追撃するショットさん。

「でもっ…じゃあ付き合ってないけど行くデートってどんなんだよ!」と困り顔で慌てて聞くサテツ君の言葉に、二人の動きは停止。
「…海辺…?」と白目でつぶやくショットさんに、「…ヘイ シリ…」と調べ物を始めるロナルドさん。

…うむ。なるほど。
こんな雰囲気の男の友達に囲まれていたら、純粋培養されちゃうね。
そりゃあノリでちょっと年上の女をデートに誘ってみて、みんなで盛り上がりたくなるかもな。事故のキスのこともあるし、サテツ君のこのキャラのことだから、お姉さんにいろいろ教えてもらえよ、なんて囃し立てられて断れなくなっちゃったのかも。

ふう、と笑いをこらえてひとつため息。
「…いいよ。デート、しよう。どこに行く?」と微笑んだ。
「えっ…いいんですか…?」と、顔をほんのり赤くしてゴクリと唾を飲み込むサテツ君と、わぁっと盛り上がる周囲。

ま、デート1回くらいなら。
食事に行って、お酒を飲んでから少しだけ夜道を歩いて、日付が変わらないうちにバイバイして、それで終わり。
私も、なぜかサテツ君には興味を惹かれていたけれど、こんなに純粋な男の子に深入りすると本当に危険な気がするんだ。だから、素敵なデート1回で思い出を作るくらいがちょうどいい。

どんなお店を選ぶのかなあ、サテツ君は。
そんなことを考えて、少しだけ上擦ってしまった心を落ち着けていると、サテツ君が「じゃ、じゃあ!」と切り出す。

「じゃあ、公園でピクニックとか…どうですか?」とはにかむ笑顔。

ピ、ピクニック!?
何年ぶりに聞いただろう。この単語…。サテツ君、本当に予想の斜め上の動きを見せてくれるじゃない…。
「わ、分かった。ピクニックね…」とぎくしゃく頷くと、「…ありがとうございます!」と嬉しそうな笑顔が輝く。

「良かったな〜腕の人〜」と携帯ゲーム機をピコピコしながらだるそうに言うドラルクさんの声がした。
「人間は寿命短いんだから一期一会だぞ。興味を持った人とは積極的に遊ばないとな〜」と口角を上げる。

わあっとみんなに駆け寄られて褒められているサテツ君を横目に、腕組みをしてドラルクさんを見やった。さすがに伊達に年取ってないわね、この吸血鬼さんは。
だけど、今の言葉は本当にそうかもね。

2つ年下のサテツ君とのデート、私も楽しんでみますか。と、思わず満面の笑顔でサテツ君を眺めたのだった。

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