邦枝葵との日常

「みょうじなまえ、覚悟!!!」
「武器は反則ーーー!!!」


ドゴォォォ!!!――…



ずいぶんと派手な音をたてなまえが直前までもたれかかっていた校舎の壁は大破した。すれすれでかわし、なまえは一目散に走り出す。どこへ、なんて考えている暇などない。烈怒帝瑠三代目総長邦枝葵が、木刀を振り回し追いかけてくる間は。
眼力のみで廊下の男子共を脇に寄せさせ階段を三段飛ばしに駆け上がる間も邦枝の斬撃はなまえの背中目掛けて飛んでくる。あまりの殺気に背後を見ずとも感じ取れてしまうそれを跳ねて屈んで反れてかわし、なまえはたまらず叫ぶ。
「なんでいっつも追いかけてくるんだー!!」
「貴女が逃げるからでしょう!!」
「出会い頭に斬ってくる人からは逃げるだろ!!」
「そういう約束なんだから諦めなさい!!」
三階を全力疾走しながらなまえは先日の自分を心から恨んだ。あの時の自分は余りに軽薄で、浅はかだった。まさか彼女がここまで自分にご執心になるなんて思いもしなかったが、あの場面でせめて日本人らしく保留という選択肢を取っていたならば!ここまでの惨状にもならなかったろうに……
ダイジェストに回想すると(現時点での彼女の精一杯である)、ちょうど華麗に不良の頭に踵を決め込んだところに通りかかった葵が烈怒帝瑠に入らないかと勧めてきたが、一年の頃から誰に誘われても断り続けていたので当然それも相手にしなかったわけだ。しかし必死に勧誘してくる後輩…身長の関係でどちらが先輩なのかすでに分からなくなってしまっていたが…に情けをかけ、「喧嘩で負かすことができたら考えよう」と返事したのだ。当時の自分はそれで葵が引き下がると思っていた、らしい。本当に蹴り飛ばしてやりたい話だが。それが過ちであったと裏付けるように邦枝葵の猛攻撃、もとい、熱烈な勧誘が始まったのだった。
「まさか自分から提案しておいて決闘に応じないなんて、全くの予想外だわ…」
「いつでも喧嘩するとは言ってないからな!」
「そんなに私のことが嫌いなのかしら」
「いえ、むしろ葵のことは超大大大好きです!!木刀下ろして!!」
「っ、そ、それは無理よ!!」
不意打ちの愛情表現に顔を赤らめた邦枝の一撃で、なまえはますます顔面蒼白になる。避けるためにやむを得ず前進する羽目になり、どんつきの教室前で立ち止まる。距離をとった状態で同じように静止した邦枝は不敵に笑った。「さあ、もう逃げられないわよ」
「………総長」
「…何?」
「どうしてあたしを勧誘するわけ?」
突然の質問に邦枝はキョトンとする。
「もう女子のほとんど集めちゃったんでしょ?別に一人くらいほっとけばいいのに」
「そ、それは……えと、」
短期間で勢力を伸ばし北関東遠征の噂までされている超カリスマ邦枝葵にしては妙に歯切れが悪い。目を反らして頬をかくその顔は、どことなく赤く染まっている気がしないでもない。
「………?」
「あ、い、今はそんなことどうだっていいでしょう!?」
「全然良くない!誘われてるこっちとしては全然どうでも良くないよ!?」
どこか抜けていると思われがちで、実際どこか抜けているなまえもさすがにそれでは流されない。至極真っ当なツッコミを入れられて、邦枝は苦し紛れに言葉を発した。
「あ、貴女ほどの実力の持ち主を放っておけないの!!」
「…むー………」
「烈怒帝瑠の勢力拡大に協力してほしいのよ」
咳払いしながらの答えに、なまえはまだ何か裏がありそうだと感じるが今はその詮索は無意味だ。とにかく今は、どうやってこの状況を打開するか考えなければならない。「わかったら、今日こそ諦めて私と戦いなさい!」
「…だが断ろう!」
「なっ…!?この状況でそんなこと言える立場じゃないでしょう!?」
「んーどうだろ、」
なまえはちらと背後の扉を見やる。その僅かな動きも見逃さず、何か仕掛ける前に攻撃を当てようと邦枝が一歩踏み込んだ、その刹那。

なまえが、扉を蹴破った。

くんっとしなる脚に、鋭く細められた眼に、僅か振り上げられた拳に。
邦枝の目が、一瞬奪われる。
「(あの足捌き……)」
初めて彼女を見たときと同じ、華麗でいてただ強いの一言に尽きる、美しさ。
扉は思いっきり教室の中に跳ね飛ばされ、硝子が飛び散る。
ガシャンと響いた音にハッとなって邦枝が教室に足を踏み入れた時、今度はなまえが不敵に笑っていた。
邦枝となまえの存在に戸惑う不良達もまさかと目を疑う邦枝も置き去りのまま、ミツルは飛び降りた。
三階の教室の、窓から。

「なまえっ!!?」
「おい、みょうじの奴落ちたぞ!?」
「い、いきなり何だ?」
邦枝は慌てて窓に手をかけ、下を見やる。木の枝を掴み上手く衝撃を吸収して着地したのだろう、こちらにのほほんと手を振るなまえを見て、ほっとすると同時にまた逃げられたと悔しさが込み上げる。
「葵ーっ!!!」
ニッコリ笑うなまえは、ああやっぱり可愛いなあと思いながら。
「またなーっ」
走り去る彼女の背中を目で追って、邦枝は苦笑した。


…やっぱりあの子には適わないな。



「姐さん、どうでした?」
「結局逃げられちゃった」
「あーあ、やっぱり」
「大体動機が不純すぎるんですよ。踵落としが素敵だったなんて、マニアックすぎて」
「ち、違うわよ!そんなわけないじゃない!」





斬撃には葵さんの愛が乗っています。

ちなみに時系列的にはなまえが二年の終わり頃なので引き継ぎとかも終了してるんじゃなかろうか。

*拍手で葵が二年だと教えて下さった方、ありがとうございます!!見落としていたようで、まったく恥ずかしい話です……><///

20110223 筆
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