神崎一との日常

「よーしよーし………」
「………」
「ほーれヨーグルッチあんぞー」
「……………」
「チッチッチッチッチ」
「お前あたしを何だと思ってんだ!!!」
えと、どうも皆さん御機嫌麗しゅう、みょうじなまえです。突然ですが、私大変憤りを感じておりますのはこの糞野郎…もとい、友人のはじめ君のことなのですが…


何、この扱い?


一年校舎の自販機を求めて歩いていくと偶然はじめに出くわした。そしてあたしを見るなり、先程買ったであろうヨーグルッチを眼前にかざし―それを見たときコイツどんだけ好きなんだよと溜め息をつきそうになった―一生懸命おびき寄せ始めたのだ。
「あたしは犬か何かですかコノヤロー」
「いや、どっちかっていうと猫じゃないか?」
「そういうこと聞いてないよな!?」
「まあ猫はちゃんと家まで帰れるけどな」
「その節はどうも!!」
「あ、飲むか?」
「………飲む」
自分で飲もうとしていたはずのパックにストローを差し、「ん、」と言いながら差し出してくれたので有り難く頂戴してやろうとその先端を口に含んだ。
ちゅうと吸い上げてから気づく、これ、餌付けまんまと成功してないか………?
ちょっと悔しくなってきたので一口なんかじゃすまないくらいに飲んでやろうと思い、喉を鳴らす。うまい、ヨーグルッチ意外とうまいわ…。
ずるずる啜っていると不意にはじめの手が頭に乗っかる。撫でつけるというよりは、くしゃりと撫で回すような感覚。さほど粗くはないからボサボサにはならないだろうけど、なんだか不思議な光景に思える。やくざの息子が不良の頭撫でてるわー…しかも意外と気持ちいい。
「ん、何?」
「いや、何かお前の頭撫でやすい」
「撫でられやすい頭って…何だそれ」
「んーちっこいからか」
「否定はしない!」
キッパリ言い放つと頭上から押し殺したような笑い声が降ってくる。でも実際本当の事で、女子の平均を少し下回るほどの身長なのではじめと比べると胸に届くか届かないかギリギリのラインだ。見栄を張っても仕方の無いところだろう。…ちょっと悔しいけど。
「あーまだ伸びないかな、高二から全然だけど」
「それもう止まってるだろ」
「あとはヒールで誤魔化すしか…」
「べつに今のまんまで良くねーか?」
「え、そう?」
「ああ。俺はこれくらいの方がす、」
ぱたりとはじめの手と声が止まる。顔を上げると考え込むように空いた左手で口元を抑えるはじめ。
「これくらいのが?」
「…あー、いいとおもうぞ」
「ふーん」
「………小動物ぽくて」
「誉められた?馬鹿にされた?」
「五分五分だな」
ちょっとむかっ腹がたったのでヨーグルッチのストローに勢いよくかじりついてやった。くそ、はじめムカつくしこれ全部飲んでやる!
「おい馬鹿、離せ!」
「ズルズルズル、ごっくん。」
「あーあ、全部飲みやがって…」
まあいいけど、とはじめは呟いてまた頭を撫でてきた。今度はより丁寧に優しく、髪の流れに沿って撫でられたので小動物から子供に昇格した気分だ。…いや、その扱いはどっちにしろ嬉しくないんだけども!

結局自販機に用があったにも関わらず目的を別の手段でクリアしてしまったので、またまた何もせず一年校舎を立ち去る羽目になってしまった。でもそれは自分のせいではない、餌付けに成功したはじめが悪いんだ!と、餌付けに引っかかった自分のことは棚に上げて責任を勝手にはじめに擦り付けておく。はじめの、コイツまた何か馬鹿な事考えてそうだなって視線はこの際無視したままで。



これちょっと神崎さんサイドも書きたくなってしまった…

20110222筆
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