こわれたあいのかたち

(別れ話です)



愛情と、不安と、独占欲と、嫉妬と、やっぱり愛が、表れていたんだろうなあと今になって冷静に分析できる。

最初は普通に接することができた、のに、段々物足りなくなった、許せなくなった。欲しくなった。

「はじめっはじめ」
「………」
「ごめん、はじめ…っ、」
「………」
「は、じ め」
「………るせえよ」

鈍い感触が足先に届くと同時に嫌な音が耳を擦った。咳と嗚咽だった。聞き慣れてしまった自分の耳と不安定に鼓動を鳴らす心臓がうざったかった。

「お前、あいつと何喋ってた?」
「別に、なんにもっ…」
「へえ」
「…げほっ」
「俺に言えねーことかよ」
「違う!ぅ、ほんとにただ、おはよって…」
「………」

本当なんだろうなと素直に思った。だがそれだけだった。俺は蹴るのを止めない。なんか、ムカついた。

「ぅ、ぇ…」
「なまえ」

前髪を引っ張って顔を無理矢理上げさせた。アイツの肩がびくりと震えるのと、嫌な感触が手のひらに残るのは同時だった。

「っ!……」
「お前の彼氏、誰だ?」
「…はじめ、だよ……」
「ああ、そうだ。じゃあお前は黙って俺にくっついてればいい。…違うか?」
「…は、い」

涙を目にいっぱい溜めて、しゃくりあげるのを必死に止めて返事するなまえを、俺は無表情のまま睨んでいた。心はずっとざわざわしてた。また怪我させちまったな、ごめんなって呟いてた。でもどうしようもなかったんだ、当時の俺は。


「私も神崎君が…好き、です」

そう言って顔真っ赤にして微笑んだアイツは幸せそうに見えた。俺も幸せでいっぱいだった。…この面で言うのもアレだけどな、かなり嬉しかった。


だからしばらく経って、もうコイツとは一緒に居られないと分かった時、俺は心がカラカラ渇いていくのを感じたんだ。

急に頭がボーっとして、自分をすごく遠くから見ているような気分になった。俺は相変わらずなまえを蹴っていた。…気に入らないとか言って。
胃液が少し零れたのをぼんやり見ながら、このままだと俺はなまえを殺すなと直感したのを覚えている。その瞬間、なまえがとても可哀想に思えた。俺と暴力で繋がってるなまえ。俺に恐怖しか感じない、なまえ。

「なまえ」
「うっ…ぁ、」
「お前、もう俺の前に来んな」
「……ぇ?」
「別れようぜ、…なまえ」

腹を抱えるなまえの傍にしゃがみこんで、精一杯優しく頭を撫でてやった。

「はじめ………?」
「俺はお前に、子供みてえな独占欲を向けてただけなんだよ」
「な、にいっ…」
「独り占めしたいって駄々こねてただけなんだ」

笑っちまう。さんざ傷つけといて、結局好きじゃなかったなんて言う馬鹿、他に知らねえよ。

「だからもう俺に縛られんな」
「はじめ」
「俺にお前泣かせんな」
「…はじめっ」
「違う奴と、笑っとけ」

なまえは顔を伏せて泣いた。時折声が漏れた。肩が小刻みに震えていた。

「なまえ、今まで悪かった。…じゃあな」

泣きじゃくり首を横に振り続けるなまえを置いて、教室から出た。最後まで最低だった。そして今俺は屋上で一人、物思いに耽っている。

柵に凭れながらアイツとの思い出を回想中だ。まず馴れ初め、まあまあ。告白、俺から。付き合い始め、上々。最近、………ノーコメント。

アイツは俺の何だったんだろう。俺はアイツの何だったんだろう。それに関する思考どころか、その疑問を頭に浮かべるだけで精一杯だ。

アイツは俺の、好きな奴だったはずだ。それがどうして、こうなったんだと考えたとき、最初の思考に辿り着いたわけだ。好きすぎて他の奴らなんかにとられたくなくて嫌になって、俺がとった方法がアイツを縛り付けることだった。恐怖でがんじがらめにして、俺から離れられないようにして。でもそれって間違いだったんだよ。心はずっとずっと遠くに行っちまってたみたいだから。

俺の心は今カラカラだ。ポッカリ、穴が空いちまってる。子供の独占欲とか言ったけど、そんなもんじゃないよな。やっぱ好きだったんだよな、俺は。

「守れはしなかったけど、救えはしたんだよな。多分。」

…勝手に正当化して自分の心を少しでも守ろうとしてる俺は、やっぱり最低だ。

ぐるぐるぐるぐる考えて、そろそろ城山か夏目に連絡してアイツを送らせようと思い立った時、ぐらぐら揺れながらアイツが校門に向かって歩いていた。今にも倒れそうなふらふらな足取りだった。俺と別れられたんだからもっと嬉しそうにしやがれって、その後ろ姿を思い切り蹴っ飛ばしてやりたくなった。



なんであんな寂しそうな背中だったのか、俺には一生解らないだろう。



なまえが誰かと話す度一々嫉妬して挙げ句暴力にはしってしまって、どうしようもなくなる前に別れることでなまえを助けようとしたはじめちゃん、の、図……(………)なんですが、かなり分かりづらい文章構成^^;
なまえははじめを恐いと思いつつも好きってところは変わらなかったので、ふられて超ショックってオチ…のつもりです(伝わらないよ)

20110305 筆

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