まちぼうけのあさ 前



やっぱり無謀だったかな、と人もまばらな駅にポツンと佇んで、思う。
荒北さんの言う通り、ここに辿り着く日ではなく、彼が飛び立つ日なのかもしれない。時差の計算もしていない、あの数字が向こうのものだったら、日本のいつのことを指しているんだろう。いや、そもそもあの数字に何か明確な意味があるのかも分からない。そこまで信頼して、こんな朝早くに家を飛び出して待ちぼうけて、本当に会えるんだろうか。来ると決めた時の固い意志は何処へやら、今はすっかり逡巡してしまって、帰るとも、居るとも断言できないままぐずぐずしている状態だった。


話はひと月前、絵葉書を受け取ったところまで遡る。





裏面に風景画がプリントされただけの、シンプルな絵葉書は御堂筋くんからの、私への贈り物だった。長い期間と距離を空けた初めての交流にもちろん胸をときめかせて、細胞の全てで喜んで、どうしても誰かに聞いて欲しくて、私が真っ先に頼りたくなったのはずっと彼とのことで助けてくれる荒北さんだった。今一番分かってくれるのは荒北さんだって思ったから、次の部活の日は朝早くに部室を訪れて、荒北さんが来るまでずっと待った。だから、姿が見えた時は、あー荒北さんだ!!と叫んでびっくりさせてしまったし、初っ端からうるせーよバァカ!と罵られた。その罵声にもニコニコ対応したせいで、


「あー…頭、打ったァ…?」


なんて余計な心配もされたけど、私がそんなことにも構わずカバンの中のクリアファイルに大事に綴じた絵葉書を取り出して見せると、


「あ〜〜〜…なるほどねェ、そういうこと」


と、ものすごく納得してもらえたので


「はい!!」


返事にも一層力が入った。

荒北さんと一緒だった金城さんにも軽く説明しながら、二人にも絵葉書を見てもらった。その風景画に二人とも心当たりは無いらしく、金城さんは見たことがあるかもしれないけど分からない、と言って、結局御堂筋くんの気まぐれで買ったものかな、と結論付けた。


「ん…ん、」


金城さんが、少しいいか、と言って絵葉書を手に取ってマジマジと見始めた。絵の記憶を掘り起こそうとしてくれてるのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。葉書の隅っこをじいっと見ていたから。そして、


「…なんだ、この数字」


と呟いた。


「ンァ?どれだよ」


荒北さんと一緒に覗き込む、金城さんの指差す先には、なるほどプリントのインクとは違う、細いボールペンのような線で四桁の数字が書かれていたのだった。わざわざ色の濃いところに青で書くあたり、御堂筋くんらしい捻くれた感じだ。


「金城さん、すごいです。私全然わかりませんでした!」
「いや、偶々だ…それより、一体何の数字だと思う」


うーんと唸ってみても、正直あまりよく分からなかった。何かの暗号か、当て字が、それとも風景画に関するヒントか。


「…これ、日付みたいじゃねェ?」


荒北さんの言葉に、なるほど、ともう一度その数字を見てみれば確かにそう見える。それが本当なら、示してあるのはちょうど一月後の日曜日だ。


「…記念日ィ?」
「いえ、違います」
「じゃあ…」


その可能性を彼が見つけてから、私は手帳も携帯もカレンダーのその日付にチェックを付けて、今か今かと待ちわびていた。


「帰国日、とか」




20141126










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