まっすぐみつめて



「ほんっとよく我慢できんなァ、ソレ」


また言われてしまった、と思わず苦笑する。二つ年上の荒北先輩は御堂筋くんのことを知っていた。インターハイで知り合ったらしく、私が彼女であることや彼が今ヨーロッパでプロのロードレーサーをしていることを話したら、たいそう驚いていらっしゃった。


「寂しくねーのォ?」


色々聞いてもらって、卒業してから一度も連絡を取ってないということも話したことがある。だから、御堂筋くんの話になると、最後は決まって簡単に会えない距離の話になって、決まってそんなふうに尋ねられるのだ。下まつ毛が特徴的な細い目をいっそう細めて、探るみたいに。


「向こうで頑張ってるんだろうなって思ったら、元気が湧きますよ!」


彼のことだから、前だけ見てずっと進んでるんだろう。あの時と変わらず、勝利を目指して。それがあの人の夢だって知ってるから、私は遠い国からでもずっと応援したいって思う。これは本心。


「ヘェー、じゃあ離れてても寂しくねェんだ」
「はい、勿論!」
「…本当は?」
「………ちょっとだけ」


寂しい。これも、本音。ずっとペダルを踏む姿を見ていたから、本当はこれからも見たいって思ってた。ずっと一緒にいられたらって、願ってた。だから地方どころか、国まで跨いだ遠距離恋愛なんて不安だらけだ。
でも、あの人は今、一人でずっと戦ってるんだって思ったら、そんな不安も些細なことだと思える。共通の知人がいて、地元に帰れば友達や家族にすぐ会える私と御堂筋くんは、違うんだから。私だって頑張りたい。


「慰めてやろっかァ?」


そっと髪に手を差し込まれてそのまま頬を撫でられる。荒北さんなりに励まそうとしてくれてるのかなって、つい笑みが零れた。真面目なんですけどォ、とふて腐れるから、慌てて謝った。


「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ!元気が湧くのは本当ですから!」
「へーへー、わぁーったヨ!…ケッ、このリア充が」


荒北さんはぶっきらぼうに返事して、つまらなさそうにひとりごちた。


「あー、振られちまったわァ」
「ふふっダメですよ、私は御堂筋くん大好きですから。荒北さんは早く他の女の子に告白して、彼女作りましょう!」
「ッセ!余計なお世話だっての!」


口の端を片方だけ、歯茎が見えるくらい大きく開けて悪態を吐く。この乱暴なところが無かったらもっと女の子受けするんじゃないかな、って思うけど絶対言わない。言ったら今の十倍は怒られちゃいそうだ。わーこわい!って軽口を叩いて、私は席を立った。


「そろそろ授業行きますね!荒北さん、ありがとうございました」
「おー、さっさと行け、そして遅刻しろ」
「ひどい!」


パタンと部室の扉を閉めて、次の授業の教室へ向かう。いつもより少し胸を張って、まっすぐ前を見て。


私は今日も貴方を想って、一日頑張ります。




20141117


(そんなハッキリ好きって言われたら、付け入る隙も無えじゃねェか、嗚呼、クソ、)










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