01.「口移ししてあげようか」



三年に及ぶ長い長い訓練が終わった。おそらく配属兵団も、各々希望を出した通りになるだろう。明日からは狭い宿舎で雑魚寝する事も、食事を当番制で用意する事も、数少ない洗濯板を取り合う事も無くなる。大きな喜びと少しの寂しさを共有するように、みんなは祝酒として提供されたお酒を食堂で飲んでいた。訓練兵に飲む事を許されたものなんて安物に決まっているけれど、初めて飲む苦味にみんなテンションが上がって浴びるように飲んでいた。

私もそのうちの一人だったけど、案外ざるなサシャに付き合わされてかなりのスピードで飲んでしまった。血流で頭が揺れるのを感じて、これはまずいと夜風に当たるため今は食堂の柵に腰掛けている。だから私の周りはとても静かだ。…時折悲鳴が聞こえるような室内と比べて。

すごく気分が高揚しているのが分かる。叫びながらどこかに走って行きたい。これがお酒の力か、とか、大人はいつもこんな気持ちを味わっていたのか、とか考えて、普段なら思いも寄らないような行動をしたくなるってことは今相当酔った状態なのかな、とぼんやり思った。


「なまえ…こんなとこにいたのか」


声の方に振り向くとジョッキを持った自分の恋人がいた。ライナー・ブラウン。大きな身体に見合った正義感を持つ、私の大好きな人。


「…酔ったから、休憩」
「顔真っ赤だな。…大丈夫か?」


ボーッとする頭を縦に揺らすと、そうか、と言ってライナーはジョッキに口を付ける。それに倣って、持っていた瓶を傾けて中のアルコールを飲んだ。ここは静かだし、サシャといると一気が基本になってしまうけどここならゆっくり飲める。


「それ…一番強いやつだろ?」
「うん、誰も飲まなかったから」


私の持っている瓶はお酒の中でも特に度数が高いもので、アルコールの味が強すぎて誰も手をつけようとせず机の上に放置されていたのを私が拝借したのだった。…本当ならストレートで飲める代物ではないのだけど、いちいち水を注ぐのも面倒なので。


「酔ってるんだろ?あまり無理しない方が」
「サシャに付き合ってあんな速さで飲まなきゃ大丈夫だよ」


さっきの早飲みを思い出して思わず笑い、またお酒を飲む。喉が灼けるような苦味があるけれど、逆にクセになってしまいそうだ。

ライナーがじっとこちらを見ているのに気づく。正確には、私の手に握られてる度数の高いお酒の瓶。


「…一口、いる?」
「良いのか?」


さすがに一本丸々空けるのは厳しそうだし別にあげてしまうのは構わないが、ただ普通にあげるのもつまらない。とりあえずライナーにあげる前に少量口に含んで、座ってるおかげで珍しく同じ目線にある彼の瞳を見つめる。あ、今ならすごくキスしやすい。

考えた時にはもうライナーの唇に吸い付いた瞬間だった。私から瓶を受け取ろうとした手は空中で静止しているし、何が起こったか分からないって顔してる。みんなの前ではいつもかっこよくて頼れるライナーが、今ではすっごく可愛く見える。
薄く開いた口に液体をゆっくり流し込んで、彼の喉が上下するのを確認してから唇を離した。相当苦いはずなのにしかめることも忘れて、びっくりした様子を顔に貼り付けてこっちを見るライナー。お酒一口でこんな顔が見られるなんて、なんて安いんだろう。幸せな気分に浸りながら、今更すぎる問いを投げかけた。






「口移ししてあげようか」
(ライナーがぼそっと「………勃っちまった」とか言うから放ったらかしてサシャのとこに行ったけど私悪くないよね!





(お題配布サイト「TOY」★恋人同士で飲む5題 より)









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