接近アプローチ!(拍手ss)



恥ずかしい恥ずかしい、恥ずかしいっ恥ずかしい!ライナーと対人格闘訓練のペアを組んで、蹴りを食らわそうとして足を振り上げたらバランスを崩して、倒れそうになったところを彼に抱きとめられて、つまりライナーに抱きしめられてる状態。みんなの前で!好奇の目に晒されて、アニだけは呆れた顔をしてるけど、他のみんなは同じようにニヤニヤしながらこっちを見てる。違うのに、私とライナーそんな関係じゃないのに。そもそも仮にそんな関係だったとして、訓練中にみんなの前でいちゃつくなんて絶対にありえな…だから違うってば!


「っ!」
「おい!大丈夫か?」
「いっ…た、」


ライナーを突き飛ばして走って逃げようとして失敗した。蹲ってしまうくらい左足がじんじんと痛む。多分さっき倒れそうになった時変に捻ってしまったからだろう。


「どうした?足捻ったのか?」
「そこ!何を騒いでいる」
「足を怪我したようです。自分が医務室まで彼女を運びます」
「…良いだろう。他のものは引き続き訓練を」


頭上からライナーと教官の会話が聞こえたが、痛みと熱と恥ずかしさでそれどころじゃなかった。私の不注意で招いたことなのに、ライナーまで減点対象になったらどうしよう。私なんかが彼の優秀な成績に傷をつけるなんて、あってはならないことだろうに。そんな不安なんて知りもしないライナーが、優しく声をかけてくれる。


「いいよ、ライナー…一人で行けるから、っ!」
「無理に動かすな。こんな所で悪化なんてさせるもんじゃない」


ぐんっと身体が持ち上げられた。膝裏と背中に熱を感じて、ライナーに抱き上げられたんだと分かった。さっきから頭が思考停止しようと頑張ってしまうことばかり起きて、湯気が出てるんじゃないかってくらい顔が熱い。ヒュウ、と口笛を鳴らした奴、教官に頭掴まれて減点されちまえ。








会話は無かった。みんなの前では恥ずかしいばっかり考えていたけれど、今では申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ただでさえ告白してもらっておいて返事もしていないのに、訓練で組まざるを得なくなった挙句勝手に怪我して医務室まで連れて行かせて、結果彼の訓練を邪魔してしまって。私って本当にダメな人間だ。さすがのライナーも幻滅しただろうか。今恥かしいのは抱っこされてる状況じゃなくて、抱っこさせてしまった自分自身。目頭が熱くなって、鼻がツンと痛んだ。


「さ、着いたぞ。とりあえず今はこれで冷やして…え?」


医務室の椅子に座った私に濡れタオルを差し出してくれた彼が固まる。そりゃそうだ、運んだ女がぐずぐず鼻を鳴らして泣いてるんだから。


「お、おい、そんな泣く程痛かったなら、ちゃんと言え。もっと急いで運べば良かった…すまん」
「そ、じゃない…ちが、くてっ」
「…ならなんで泣いてるんだ」
「ご、めんねっ…ひどいこと、したのに、迷惑まで、かけて」


一言言ってしまうともう止められなかった。拭っても拭っても涙が溢れてくる。私の口からは、ごめんごめんと繰り返し言葉が漏れるだけ。


「俺がいつ、酷い事されたんだよ」
「だって…告白、返事もせずに逃げちゃって」
「…ああ、そのことか」


そっと顔を上げてみると、困ったようにライナーが笑っていた。左足首にタオルを巻いてくれる手は優しくて、暖かい。


「俺だって悪かったと思ってる。急で、吃驚しただろう」
「っ、だけど…!」
「今日訓練の相手を頼んだのだって、俺があんたに嫌われてない確かめたくて態と声をかけた」
「そう…なの?」
「ああ、チャンスだと思って。ここで断られなければ本気で嫌われたことにはならない、と。…馬鹿だよな、例え嫌ってても拒否できない子だって、薄々分かってたのに」
「………ライナー」
「俺の方こそ酷い事をした。…すまない」


縛った袋に氷水を入れて、先ほどのタオルに巻き込んで冷やしてくれるライナーは、ぐっと眉を寄せて堅い表情をしていた。そんな辛そうな顔されると、違う意味で泣きそうになってくる。


「謝んないで…私の方が、悪いことしたし、」
「いや、それはやっぱり俺が」
「いいって、いいってば」
「しかしだな…」


俺が私が、と終わらない押し問答をしてる間に目が合って、どちらからともなく笑いが零れた。ライナーが意外と頑固だな、と笑うので、私もライナーこそ強情だと言ってやった。


「私…まだ、分からない。ライナーのこと、どう思ってるか…だからもう少し、返事を待って欲しい」
「えっ」


そう告げると、彼の目が僅かに大きく見開かれる。


「…ダメかな」
「………いいのか」
「何が?」
「…いや、何でもない」


首を横に振る彼の意図が分からなくて思わず首を傾げた。ライナーはゆっくり立ち上がって、それから私の頭をポンポンと優しく撫でる。


「俺はそろそろ戻る。今日はここで休んどけよ」
「あ、あー…ありがとね、ライナー」
「おう、じゃあな」


さら、と彼の手が前髪を掻き分けた。徐々に顔が近づいてきて、目の前にぽっこり突き出たライナーの喉仏があった。身体が近い、と戸惑っていると額に何か柔らかいものが当たる。え、何だなんだと思っているうちに軽くリップ音がして、すぐライナーが身体を離した。

ばたんと扉が閉まって、私は一人取り残された。一つの疑問がじわじわ胸を侵食していって、私は危うく椅子から真っ逆さまに転げ落ちるところだった。




…ライナー、今一体何をしたの!?





接近アプローチ!
「…やべぇ、断られると思ってたから、つい調子乗っちまった」









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