偶発アクシデント!(拍手ss)



最近の対人格闘訓練は退屈で、憂鬱だ。一番の理由は、エレンが真っ先にアニと組みたがるせい。次に、満更でもなさそうなアニが断りもせずエレンと組むせいで、ミカサの無言の圧力が私にかかるから。私だって被害者なのに。酷い。

今日はとことんついてない。エレンを取られて拗ねたミカサが半ば八つ当たりの意も込めたのだろう、サシャを無理矢理訓練の相手に選んだ。俺の相手がいなくなるとぶーたれたのはいつもサシャと変なポーズをとって遊んでいるコニーだ。そこに、私が代わりに組むから我慢してと女神クリスタが説得すれば、役得である彼が何か文句を言うはずが無い。すると、いつも彼女にべったりのユミルがつまらなさそうにしている。うまい具合に通りかかったベルトルトが、たまには自分より背の高い人を相手にしてみたらと名乗り出ると、ユミルが、別に小さいからクリスタと組んでたわけじゃねえとなぜか喧嘩腰になりながら組むことになった。あれよあれよと言う間にみんな二人一組になってしまい、気づけば私は溢れ者だ。なんてついてないのだろう。

そろそろ訓練を開始していないとサボっていると思われる。成績が下がる以上に、怖ーい教官の、キツーいお小言が私は恐ろしい。何としてももう一人の溢れ者を捜しださなければと、焦燥しながら辺りを見回した。


「相手、いないのか」
「え、ぇっ…?」
「丁度良かった。俺もまだ一人なんだ、良ければ組んでくれないか?」


私に声をかけてきたのは、まさかのライナー・ブラウンだった。どうやら普段一緒に組んでいるベルトルトが別の所に行ってしまったから、彼も溢れ者の一人ということだろう。先日彼から告白されて、あろう事か返事もせず隙を突いて逃げ出したなんてやばいフローチャートを作ってしまった私としては、今ここで何事もなかったかのように話しかけられるのは少し複雑な気持ちだった。というか、申し訳なさすぎて気まずい。しかしながら、貴重なペア候補をここで逃すわけにはいかない。公私混同は良くないと分かっているからこそ、ライナーも私に声をかけてくれたに違いないのだから。


「う、うん…私で良かったら」
「いや、嬉しい。ありがとう」


嬉しい、の一言にすら過剰に反応してしまった。やっぱり、この前返事しなかったこと気にしてるんじゃないかな…。

それでも対峙したライナーの眼差しは真剣そのもので、こんな風に恋愛のことばかり考えてる自分の頭が恥ずかしくなってきた。そもそもあの場から逃げ出した自分の責任なのに何をこんなに悩むことがあるんだ、自分よ。


「じゃあ…行くぞ!」
「うんっ」


ライナーが木剣を低く構えて突進してきた。今日の訓練は、より実戦を意識して木剣を取り上げる、またははたき落としてからも続行する。木剣を持つ側は拾い上げるか、生身のまま格闘に移行するかを選び、取り上げる側は瞬時に対応しなければならない。予想通りライナーは格闘に持ち込んできた。あの体格であれば武器なんてなくても相当強いだろうし、当然と言えば当然だ。対して私は小柄で一見、圧倒的不利に見えるかもしれない。しかしこう見えて私は小さい時から両親に格闘術を教わってきている。他人よりも股関節が柔らかく、アニの専門分野がローキックならば私はハイキックの方が得意だ。その似た境遇もあって彼女と仲良くなれたのもあるけど。私がそれなりに本気で打ち込めばあのアニもガードせざるを得ないほどの威力がある。この
蹴りが、小さい私が巨きなライナーに太刀打ちできる唯一の手段だ。左足を軸に腰を螺子り、ボディーに拳を打ち込んできたライナーの首目掛けて蹴りを放…ちょ、ライナー意外と身長高すぎィ!


「、きゃっ!」
「うおっ!?」


バランスを崩して後ろに身体が仰け反る。背中に来る衝撃を予想して、思わず目を瞑った。



…何も衝撃が来ない。恐る恐る目を開けてみても視界は暗い。というか、なにか厚いものに包まれてる。背中には熱い棒が絡みついて…腕?人の腕らしきものがしっかりと私に巻きついている。腰にもしっかり添えられている、これは…手?って、誰の、


「危なかったな…怪我は無いか?大丈夫か」
「えっえ、あの、ちょ、ちょっこれ、いまっ」


…理解していない方が幸せだったかも、しれない。恐らく、恐らくだが、倒れそうになった私を、ライナーが、私に告白してきたライナーが助けてくれて、ただその咄嗟の判断だったために、こう…ぎゅっと抱き締めるような形に、なってしまっている。恐る恐る顔を上げると、予想以上に近いライナーの顔が、心配そうに見つめて来る目が、嘘じゃないぞって言ってる、気がした。じりりと生まれる左足首の痛みと、ぐわっと熱の集まる顔と、彼にも聞こえるくらいばくばく激しく脈打つ心臓の音が、私の思考をパンクにまで貶めた。


「っ、きゃああぁぁぁぁ!!!」


私の喧しい悲鳴が、みんなが私たちの異常な光景を目にする一番の要因となってしまったのは言うまでもない。





偶発アクシデント!
…ライナーのバカは一体何をやらかしたってんだ?








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