ライナーとベルトルトに会う話



近頃外食続きだったので、適当に夜ご飯をライナーと一緒に作ることになった。何にするかはまだ決めてないのでとりあえずお互いのマンションから近いスーパーに向かう。店の中を歩いていると、隣のライナーが急に肩をびくんと震わせて立ち止まった。
不思議に思って視線を探ると原因はすぐに見つかる。パスタの乾麺を一袋握っている、ライナーが今好きな女の子だ。


「こんばんは、なまえ」
「よ、よお、奇遇だなこんなとこで」
「…こんばんは」


ぺこりと丁寧にお辞儀される。
彼女もこのスーパーに来るということは、マンションが近いんだろうか。


「なまえ、今日スパゲッティ?」
「カルボナーラ食べたくて。ソース作ろうとして、麺が無かったの」
「それは大変だ」


くすくす笑う僕の隣で、ライナーが自炊…手料理…とぼそぼそ呟いてる。気味が悪い。


「二人もこれからご飯?」
「うーん、何にするかまだ決めてないんだ」
「最近外に食いに行きすぎたからな」


ライナーが軽く持ち上げたカゴの中には何も入っていない。
なまえがおもむろに乾麺の袋をもう二つとって、僕たちに笑いかけた。


「良かったらこれからうちにおいでよ。一緒に食べよ?」


急なお誘いに、ライナーじゃなくても心臓が跳ね上がる。女の子のガードがこんなに緩くていいものかと、えと、とかあの、とか口から漏れる。ライナーは…ダメだ。多分今何も考えられてない。


「な、なんだか悪いよ、一人暮らしの女の子の家なんて。それにほら、僕たち食べる量多いし」


僕がそういうとなまえはケラケラと笑って、予想だにしない爆弾発言をかました。


「大丈夫だよ。ジャンはバカだから、ご飯作る時いつも二人じゃ食べきれないんだ」










結局流されるままなまえの部屋まで案内された僕たち。間取りはどこにでもあるような学生マンションだけど、カーペットや小物など、所々女の子らしさが垣間見える。
本当なら鼻息荒くして喜びそうなライナーだけど、さっきの彼女の言葉を気にして複雑そうな顔をしていた。


「俺たちも何か手伝おうか」
「いいよ、座ってて。ここのキッチン狭すぎて、人が二人立てないの」


ほら、とキッチンに立ったなまえが言う通り、確かに部屋の奥まった所に設置されたキッチンと流しは二人も並んだらまともに身動きが取れないだろうってくらいの幅だった。ライナーと僕が黙ってちゃぶ台の置いてあるカーペットに座ると、なまえが料理する音が聞こえて来た。










「ジャン今日肉じゃがだって」


茹で上がった麺とクリームソースを用意してなまえがお皿を持ってきた。


「肉じゃがとカルボナーラなんだ」
「おー、うまそう」
「世に言う和洋折衷だよ」


そんな用語だったっけと疑問に思いながらもライナーと一緒に目の前のお皿に視線を注ぐ。スーパーでもらった使い捨てのフォークを袋から出して、なまえが並べてくれた。
ピンポン、とチャイムが鳴って、すぐに扉の開く音がする。


「あー肉じゃがはやっぱ牛肉だよな、牛肉!今日さ〜ちょっと遠いスーパー行って特売やってたんだよ、俺これからあそこで買いもんしよっかな〜」


ピンク色のミトンで鍋を掴みながらがははと笑って現れたジャンは、完全に油断していたと言わざるを得ない。


「あ…あ?ちょ、待ってなんでお前らが、あ、いやこれは、その」
「ジャン鍋落とす前に置いといて」
「おい!なまえ!説明しろどういうことだこれ」
「さっきスーパーで会ったから、ご飯食べようって誘った」
「おい、おい、俺が恥ずかしい奴になっただろうが、なあ」
「大丈夫、ジャンはもともと恥ずかしい奴」
「おいいぃぃぃそうじゃねええぇぇぇ」


顔を真っ赤にしてピンク色の可愛いミトンを床に叩きつけながらジャンは怒った。そんな二人の微妙に噛み合ってない会話が可笑しくて、僕たちはつい声をあげて笑ってしまう。ジャンはまだ違うんだ、このミトンは本当はなまえので、といってるのが尚更面白かった。






「じゃあ二人はよく一緒にご飯食べるんだ」


聞けば幼稚園の頃から一緒で、大学が決まった時二人とも下宿することになって、どうせだから同じマンションに住むことにしたらしい。二人で料理を作りあって、どちらかの部屋で食べあうんだとか。

なるほど出会った時から妙に仲がいいと思ってたけど納得だ。ライナーは幼馴染か…と呟きながらじゃがいもを口に放り込んだ。


「一人で二品作るのは大変だし、ここのキッチンじゃ狭くて並べないからよ」
「作った後どっちかの部屋で食べると丁度いい」
「なるほどな…」
「にしてもお前、なんだカルボナーラって俺肉じゃが作るって言っただろ」
「だって食べたかった」
「やたら変な組み合わせになっちまったじゃねえか」


二人の会話を笑いながら、二人の作ってくれたご飯を食べた。
ジャンの作った肉じゃがは、ちゃんと味が染みてて美味しい。なまえのカルボナーラも麺とソースが絡み合っててペロリと食べ切れてしまう。

食べ終わったライナーが、僕の食器と自分の食器を流しに持って行った。そのまま水を流す音が聞こえて、律儀に洗ってるんだなと分かった。なまえが慌てて声をかける。


「ら、ライナー、いいよ置いといてよ」
「いいんだ、ご馳走になったお礼くらいさせてくれ」


こういうことを自然とできるライナーは尊敬する。今回ばかりは、多少下心があるように見えなくもないけど。
なまえがジャンのお皿ごと運んで行って、そのままライナーの隣に立った。ライナーが洗ってカゴに立てかけたお皿を、なまえが拭いていく。ああ、ライナーの奴、今どんな顔してるんだろう。ニヤけないよう必死に無表情でいてそうだな。






ジャンが残った肉じゃがの煮汁に手を加えて猫まんましたり、冷蔵庫にあったアイスを勝手に食べたりした以外はテレビを見てのんびりと過ごさせてもらった。小一時間くらいダラダラしてから、ジャンがそろそろ戻るかと言いながらミトンと鍋を持って立ち上がった。それを合図に僕たちもお暇しようと立ち上がる。


「ありがとう、楽しかった」
「うん、また来てよ。」
「今度は俺たちが飯作るよ、また誘う」
「楽しみにしてる。あとジャン、次来る時アイスちゃんと買ってきて」


ジャンはへーへーと言いながら向かい斜めの自室に歩いて行く。
じゃあ、と手を振って僕たちは階段を降りた。なまえは送ると言ってくれたけど、偶然にもこのマンションはスーパーから僕たちのマンションへの道のりにあったので、気持ちだけ受け取っておいた。

来た時よりも気温が下がっていて、少し肌寒い。隣のライナーが、雲がかった空を見上げながらぽつりと呟く。


「いいな、幼馴染って…」


二人の会話を聞いて僕と同じように笑っていたライナーだけど、内心ではものすごく羨ましがっていたらしい。実はむっつりだったなんて、知らなかった方がいい事実だ、僕としては。


「…聞かなくてよかったの?」
「…何をだ?」
「二人が、付き合ってるか…ってこと」


うーん、とライナーは考え込む。


「付き合ってたら俺たちを飯に誘ったり、すると思うか?」
「ああ、それは…でもあの二人なら」
「俺は本当にただの幼馴染と見た!」


ぐっと拳を握るライナー。


「恥ずかしい黒歴史にならないといいね」
「ぐ、お前…!!」
「頑張ってよ、応援してるからさ」
「!…おう、」


はにかんだライナーを見て、本気なんだなあ、と思う。他人の彼女に恋してるなんて、ちょっと絶望の度合いが濃そうだからぜひあの二人にはただの幼馴染でいてほしい。僕は自分の幼馴染の恋路が上手く行くようにと、屋根の間から一つだけ見える一番星にひっそり祈った。




20130801










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