ジャンとサークルを見に行く



昨日は疲れきって、マンションに帰ってから挨拶もそこそこに自室に入ってベッドに上半身だけ乗せて寝た。おかげで起きた時ちょっと膝が痛かった。13時に学校へ行ってサークルを見ようと約束していたが俺が起きた時間は30分も過ぎていて、まずい寝坊だと一瞬冷やっとしたが、ノックされてないしケータイを見ても何の連絡も入っていない。あいつもヘトヘトだったし準備してるか、最悪未だに寝てるんだろう。さっと朝シャンして髭を剃って着替えて、幼馴染の住む斜め向かいの305号室へと向かった。






「…いや、予想はしてた、してたけどよ」


果たして予想は当たっていた、まあ…最悪な方で。玄関の鍵が開いてた時点でこいつの危機感の無さに驚きを禁じ得なかったが、更に驚愕の光景が廊下を通った先のリビングで繰り広げられていた。


「その寝方は無えだろう…!!」


なまえは仰向けになって寝ていた、床で。しかも足だけベッドの上に乗せられている。謎だ、なぜ俺と真逆の状況になっているんだ…!!!


「おい…起きろなまえ。昼だ」
「んん…何だよジャン、夜這い…?」
「昼だって言ったろ!!チッ腹なんか出して寝やがって風邪引くぞバカが」
「あー、ケツ痛え…」
「なんでこうなったんだよ…」


腕を引っ張りあげて起こす。歯ブラシを持って洗面台の方に向かったので、俺は何か食えるものが無いかと冷蔵庫を勝手に漁る。お、沢庵見っけ。

禄に材料があるわけでもないので、インスタントの味噌汁と沢庵をお供に白米をかき込む。家ではパン食だったけど、こいつといる時はいつも白米を食うことになるんだ、なぜか。

今日の予定を確認すると、まずあのヘンテコなサークルに見学に行く。で、怪しくな…面白そうだったら、夕方の学部説明会に出た後交流会とやらに参加することになった。


「聞こえはいいけど、ただの飲み会だよな…お前飲むの?」
「…出されたら」
「酒飲んだこと無いよな?」
「初めて飲む」


強いイメージは無いが大丈夫だろうか。とか言って、俺の方が弱かったらどうしよう…


「飲んでみないと分からないよ」


俺の心配事を見透かしたように、なまえが味噌汁を啜りながら呟く。そうだな、と言って一緒に食器を片付け、学校へ向かう。せめて酔い潰れてこいつに送ってもらう羽目にはならないよう、祈るばかりだ。










ビラの隅っこに汚く書き殴られた地図を解読するのに予想以上の時間がかかって、辿り着いた時にはけっこうな人の列ができていた。体験入部とあるが一体何をするんだろうと最後尾に並ぶと、オレンジがかった金髪の女性が対応してくれた。


「こんにちは、新入生の子よね?もう体験入部の説明は受けた?」
「いや、まだ…です」
「じゃあ、今から説明するわね。私は2回生のペトラって言います」


にっこり笑うペトラ…さんは何本かのベルトを俺たちに渡す。


「この体験入部では、あの設備を使って新入生の適性を見ているの」


視線の先…列の先頭には、柱を組み合わせて作ったらしい装置みたいなのが何台かあって、新入生がロープを使ってぶら下がっている。


「適性って、あのヒュンヒュン飛ぶ機械のですか?」
「え?ふふ、そうよ。次はここをクロスさせて…靴は履いたままでいいわ、そうそう」


なまえの間抜けな表現に、ベルトの装着を手伝いながらペトラさんが笑った。
靴越しに土踏まずを圧迫されながらしばらく待って、やっと俺たちの順番が来た。腰の両側にロープを取り付けてもらって、ペトラさんの合図で俺たちの身体が持ち上がる。
多少ふらつくものの、なんとか自分の身体を支えることができている。もう少し右足を踏ん張った方が体勢が安定するな…なまえはどんな様子だろうと視線をズラす。


「っておい!おま、何それっ」


隣を見て思わずドン引きしたのは、なまえが地面と水平になるまで身体を倒して遊んでいたからだ…


「ジャン見て見てーエアハンモック」
「ぶっ」







「す、すごいわね、初めてであそこまで…」


なまえのしでかしたことの重大さを物語るように引きつった笑い浮かべたペトラさんに、とある部屋に案内してもらう。そこでジュースとお菓子を振舞ってもらい、周りの新入生と同じようにサークルの活動について教えてもらった。


「ボランティア?」
「そう、ボランティア。色んな地域に行って、色んなことをするの。これを使ってね」


コンコン、と腰の機械を小突く。
色んなことってのは、例えば地域の美化活動とか、福祉施設での介助サービスとかを指すらしい。場合によっては被災地へ赴いて救援物資の輸送を手伝ったりもするそうだ。


「けっこうガチっすね」
「そうね、これを使いこなせるようになるにもかなり練習しなきゃいけないし」
「そのヒュンヒュン装置ほんとすごいですね」
「なまえ、その表現止めろそろそろ恥ずかしい」
「ヒュン、ヒュン…装置…!!ぶふっ」


堪えきれずにペトラさんが噴き出す。…ペトラさんすまない。こいつは、至って真面目なんだ、多分。


「と、とにかくこれを使ってできることは何でもやるようなサークルだから、割と活動範囲は広いわよ」


一通り説明した後、一冊の冊子を俺たちに見せてくれた。どうやら活動記録を編集したものらしく、写真やコメントが所狭しと並んでいる。集合写真やまさに飛んでいる瞬間のスナップ写真、私服で食卓を囲んでいるのは合宿でもあるのだろうか?どれもみんなが活き活きとしていて、本当に楽しそうだ。


「ジュース無くなっちゃったね。何か持って来るから、待ってて」
「あ、すんません」
「ありがとございます」


ペトラさんの残してくれた冊子をしばらくペラペラ捲るなまえは、心なしかウキウキしている気がする。
やたら仏頂面の人を中心に5人で撮ってる写真にペトラさんもいた。腕組みしている人を囲んだ4人が笑ってピースしている写真だ。


「…気に入った?」
「んー、やっぱヒュンヒュン楽しそう」
「お前それ他の人の前で言うなよ?」


ふっとなまえが冊子から顔をあげて俺を見る。


「…んだよ」
「ジャンは、入りたいとこ探さなくていいの」
「あ?俺はお前の入りたいとこでいーんだよ」
「えっ」
「え?」
「………ジャン、一緒に入ってくれるの?」
「あー、まあ、そのつもりだけど」


なんだなんだ、改めて確認されると照れちまうだろうが。一瞬呆けたような顔をして、すぐニヤァっと笑った。


「ぐっ、何だよそのムカつく顔!」
「そっかそっかあージャンは私と一緒にいたいかー」
「はあ!?勘違いすんなバカ、俺はただお前のお袋さんに面倒見てくれって頼まれたから」
「はいはい分かってる。でもいいの?そんな理由でサークル決めて」
「別に他に気になるものも無えし、良いんだよ俺はお前と一緒で」


わざと髪をぐしゃぐしゃにするよう頭を撫でる。うわったやめろバカとか失礼な声と一緒に笑い声が聞こえる。


「またジャンと一緒かー」
「なんだよ嫌なのかよ」


俺がわざとらしくむくれると、意地悪く笑ってなまえが呟いた。


「逆だよ、バーカ」




20130707










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