嫉妬
後ろから抱えるように抱きしめられる姿勢には慣れたけど、この妙に突き刺さる沈黙は何だろう。部屋に来た時からライナーがぶすっと不機嫌そうにしていたのと関係あるのだろうか。
「…ライナーさん」
「………」
ああ、無言。喋りたくなくなるほど嫌われたのだろうか。しかしそれにしては抱きしめる力は少し痛いくらいで。ライナーが今何を考えているか、正直よく分からない。
「…なまえ、俺のこと好きか?」
「…へ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。恥ずかしいから急に何、と言って突っぱねてやりたかったが、悩みの種がこれならば空気を読んで真面目に答えた方がいいと思った。
「…好き、だよ、ちゃんと」
改めて言葉にするなんて恥ずかしい。ちゃんと答えたから許しがもらえるだろうと思ったが、残念なことにその質問だけでは機嫌が収まらないらしく、追撃が来る。
「…それは、仲間としてか?それとも、一人の異性として?」
「ん、んー、男の人として…です」
そうじゃないなら何度も体を重ねたりするわけが無い!…と叫びたい。
「………じゃあ、…ト、は」
不機嫌そうな顔を私の肩に押し付けてライナーがぼそぼそ呟いた。
「ん?何?」
「………ベルトルトは、どうなんだ」
また素っ頓狂な声が出そうになるがなんとか飲み込んだ。どうしてここでベルトルトが出てくるのだろう。
「え、んー…まあ好き、かな」
ぎゅうっと抱きしめる力が強くなる。
「イテテ、な、仲間としてだよ…!」
慌てて宥めると力が弱くなる代わりに鼻をぐりぐり肩口で擦られる。地味に痛い。
「なに?なんでベルトルト?」
「………今日、二人で楽しそうに話してた」
「え?…ああ」
ライナーとベルトルトはいつも一緒にいる。そのライナーと私は話す機会が多い、必然的にライナーを通じてベルトルトと話すことも多々あった。そんな友達の友達…正確には恋人の友達だけど…程度の仲だったが、今日たまたま一人でいるベルトルトを見つけて声をかけた。聞けばトイレに行ったライナーを待っていると言っていたので、自分が友達に呼ばれるまでの少しの間話していたのだ。ライナー不在の中思ったよりも話せたことが面白くてつい笑いが零れた記憶がある。
なんて一人で納得して考えてたら低い声でおい、と囁かれ、がっしりした腕でゆるく首を締められる。
「ライナー、落ち着けって」
「…俺は別に、慌ててない」
「ぐ、じゃあ締めるの、やめて」
腕の力が弱まったのでもぞもぞと体を動かし、ライナーと向き合う形になる。
覗き込んだ顔はぐぐっと眉が寄っていて、まるで泣きそうになるのを堪えてるみたいだった。
「私、ライナーだけは特別に好きだから」
「………本当か?」
「本当だよ…みんなのこと仲間として好きだけど、ライナーは特別。だから拗ねないで」
ぴしゃりと言い放つとライナーは気まずそうに口を突き出してむくれた。
これ以上ぞんざいに扱ってあげるのはなんだか可哀想だ。身体は大きく逞しくても、そこに詰め込まれた心は少しばかりお兄さんなだけの、17歳そのものなんだから。
少しでも機嫌を直して欲しくて、その薄い唇にそっと吸い付く。
ライナーはびくっと身体を震わせたけど、すぐ嬉しそうに貪り出す。手で頭を支えて離れなくしてから、何度も私の唇を舐める。そのうち舌は口内に侵入して、舌同士絡まったり歯列をなぞったり好き放題暴れまわる。
彼が満足してキスを辞めるまでかなりかかって、ずっとくっつきっぱなしだった口から空気を取り込もうと少し必死になった。
「なまえ〜…!」
「うぎゅっ」
勢いよく倒れたライナーに巻き込まれて、ベッドに二人して沈む。とても苦しい。腕だけじゃなくて、太い足も駆使して抱きつかれているんだから堪らない。潰れそう。
「ラ、ライ、な………」
「俺もお前が好きだ…!いや、愛してる!!ああ、なまえ…!!」
「ぁ、が…ぐふ」
100kg近い愛に押しつぶされ、危うく窒息しそうになるくらい抱きつかれたから、私も好きだよ、とスムーズに言うことは到底叶わなかった。
20130630 ありがちですが(´ `*)