ジャンと入学式から帰る



4月初日だってのにやたら日が照っている。真っ黒なスーツに身を包んで暑さのあまりバテているのは、俺だけじゃなくて隣でヘロヘロ歩く幼馴染も同じだ。狭い講堂に詰め込まれ長々と話をされ、その後小教室で資料やら書類やらをごっそり渡された。そうでなくても前日まで引っ越しの片付けやら契約やらで働きづめだったんだ、早く家に帰って休みたい。休みたい、のに…


「っなんだよ、この人の多さ!!!」


俺たちが校舎から出た瞬間、ビラや看板を持った人間がどっと押し寄せて来た。どうやらサークルの勧誘らしく、荒々しくビラを押し付けられたり、興味は無いかといちいち話しかけられたりするせいで一歩も前に進めやしない。何じゃこりゃ。高校の部活と、勧誘の熱気が違いすぎる…。


「おいなまえっ!大丈夫、か…」


ばっと後ろを振り返ると、必死に手を伸ばす幼馴染が人ごみに埋れていくのが見える。まずい、このままじゃはぐれるどころか、あいつが圧死する。


「掴まれ、なまえ!」


ちっこい手を握って、次から次へと溢れる新入生の塊に突っ込んで行こうとする波からなまえを引っ張り出してやる。ちょっと涙目だ、多分命の危機を感じたんだろう。


「…死ぬかと思った」
「…みてえだな。とりあえずここから出ようぜ、つーかもう帰ろう」


力無くなまえが頷く。第二波を避けるように端の壁に沿って校舎を出た。正門までの道のりにも人がわんさかいて、直進するのはあまりに危険すぎる。なまえの
手を握り直して迂回するように正門を目指した。






スーツを着てる俺たちは、自分が新入生です!とアピールしているようなものだ。人の少ないところを狙っても、その少ない人が全部こっちに来た。いっそ走って逃げて行こうかと、なまえに相談しようとしたその時。


「ひゃっほーーーーう!!」


頭上から声がして、黒い影が通り過ぎる。何事かと思って仰ぐと、人が空を飛んでいた。飛んでいる、人が。空を。黒いワイヤーに引っ張られて、白いガスを吹かしながら。想像だにしなかった光景に俺たちは言葉を失った。メガネの人が空からばら撒いたであろうビラが、べしゃっと俺の顔にへばりついた。「んぶっ」って、変な声が出ちまったじゃねーか。


「…調査兵団?」


なまえも覗き込んでくる。白黒印刷の汚いビラには『調査兵団、入団者募集!!』とデカデカ書いてあって、隅っこの方に新歓時期のイベントが載せられてる。ちなみにサークルの概要とか、活動内容なんてものには一切触れられていない。


「…何するサークルなんだ、これ」
「…わかんない」


目を瞬かせてなまえは食い入るようにビラを見つめている。


「…気になんの?」
「…うん」
「明日行ってみるか?」
「…うん」


流石に今から行こうという気力は無いらしく、俺の言葉に素直に頷く。少々胡散臭そ…いや、怪しそうなサークルだが、内容によってはただ普通にスポーツをするよりは大学でしかできない事をできるんじゃなかろうか。…つーか、こんなアブネーとこになまえを一人で放り込めねえ。幼稚園の頃から何かと危なっかしいコイツを見るのが俺の役目だったし、大学が決まった時も娘を頼むってなまえの両親から頼まれてるんだ。こうなったらとことん付き合ってやろう。そのためにはまず、


「まず、アレを抜けねーとな…」


俺たちの視線の先には、絶望するくらい人でごった返しになった正門があって、二人で泣きそうになった。




20130620










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