何故か言いづらそうに、鬼道は言った。

「……爪を切らせてくれないか?」

「急にどうしたんだ?」

訝しがれば気まずそうな顔で、

「背中が痛いんだ。」

と。
一瞬意味がわからなかったが、理解してしまえば羞恥が込み上げる。

「……っっ…!」

「だから、切らせてくれ」

「頼む」

正視出来ずに目線を外しつつ手を差し出す。
確かに、爪はのびていた。
この長さならば相当深く抉ってしまっただろう。
申し訳ない気持ちと気恥ずかしい気持ちと、その他綯い交ぜになりつつも指先を見つめた。

パチン、パチンと爪きりで短くなる爪。
一本一本丁寧に切るから、爪先は綺麗な半円形を描いていた。

「きれいな手だな」

と言いながら、鬼道は短く丸くなった爪をなぞる。
右手はもう切り終わって、左手に移るところで。

「そうか?」

大して形が良いわけでも細く滑らかなわけでもない。
長く骨ばって、たこの後も残っている。
そんな手をきれいだなんて。

「良く使い込まれて、磨かれた手だ」

そう、手を包み込まれて。
キュッと握る手のひら、鬼道はそのまま宝物みたいに優しく持ち上げて、切ったばかりの左手の薬指の先に優しくキスを落とす。
びくりとして手を引こうとしたが、がっちり掴まれて抜けなかった。

「…離してくれないか……」

「嫌か?」

ぺろりと舐められ、口に含まれればくすぐったくて仕方ない。
そのままカリッと噛まれれば、ぞわぞわしたものが背中を這い上がってくる。

「いいから離してくれ」

指を引き抜けば、瞬間繋がった銀の糸が千切れる。

「指先も甘いな」

他は何が、などと聞いたりはしない。墓穴だからな。
微妙な心境で切られた爪を見ていると、手を惹かれて口付けられた。

顔が赤くなっているのはわかっていたが、睨みつけて言わずには居られなかった。

「……恥ずかしいやつだ…」




(指先の半月)
(白く、甘く)




***
鬼道さんにはきっと何らかのスイッチがついてるんだと思います。
はじめは照れたり色々気にしたりするんでしょうが、スイッチが入るとグイグイくる男なんだと思います。

企画二個目、鬼豪でした!


2010/6/18





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