鬼道の管理している教会はこじんまりとしているがとても綺麗だ。
並ぶ長椅子と祭壇、所々にステンドグラスのモザイク画が透けて教会には色とりどりの光が入ってくる。
朝の空気と相まって、ひどく荘厳な匂いがした。
裏口から教会を出れば、そこには庭があった。
鬼道は祭壇に飾る花々を庭で育てているらしく、行き届いた管理の元で様々な種類の花が咲いている。
見た事の無い花も多く、歩いているだけで楽しい。
そうして庭を散歩していると、家の方から鬼道が歩いてきた。
「豪炎寺、おはよう。今日は早いんだな」
「たまたまだ」
「そうだろうな」
くつくつと鬼道は笑う。
俺が寝汚いのを良く知っているからだ。
少しムッとした俺に構わずに鬼道は、
「早起きついでに何本か花を摘んでくれないか?そこの白百合で良い」
と言ってきた。
「あぁ」
短く返し、花に触れたら
花を枯らして、しまった。
「……ぁ…」
衝撃だった。
気が緩んでいたのかも知れない。
花の精気を吸い取ってしまうほど飢えてなどいないのに……。
一部始終を見ていた鬼道が近寄ってきた。
「どうした?腹が空いたのか」
そう言って手に触れてくる温度は心地良く、流れ込む精気は美味なのだけれど。
「いや、腹が減っているってわけじゃない。自分でも何故吸ったのか良く分からないんだ」
「そうか……」
「昔はこんな事無かったんだが」
「環境が変わったからそういう事もある、気にするな」
そう言って、鬼道は花を摘んで行ってしまった。
(衝撃だったのは……そういう意味では無いんだがな…)
鬼道は庭の世話を趣味にしているような所があるから、せっかく丹精込めて育てた花を枯らしてしまった事が申し訳無かったんだが……。
後で謝ろうと思いつつ、根元まで枯れた花を抜いて埋めておいた。
庭にて2011/6/1
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