おまえはほんとうにきれいだなって、きみがわらったあのはるのひを
ひとつぶのあめといっしょにわすれられれば
おろかにもぼくは、きみをおもいだすこともわすれてしまうのかも ね





頬を流れる雫をどうにも出来ない俺の前で、

「桜の下には死体が埋まっているそうだ」

鬼道は唐突にもそう言った。

「この話を聞いた事のある人の中には、桜の咲く頃に木の根元を見るやつもいるだろう?」

「…いるだろうな……」

視界がぼやけて、鬼道の輪郭が曖昧だ。
涙を拭きたいけれど手が動かない。

「綺麗な桜を見て根本にあるかもしれない醜い死体を考えるなら、初めから桜を見なければいいとは思わないか?」

「……鬼道、」

一体、何を言っているんだ。

「俺が死んだら、もう俺を忘れた方が良い」

「…ば、か……俺は」

「死体を孕んだ桜なんて、無い方がいいんだ」

「俺は、」

綺麗なんかじゃないと言いかけた唇を塞がれて。
ゴーグルの奥の瞳は揺れていて赤い。
言葉とは裏腹に、その色はたった一つを訴えている。

言葉にはしなかったが視線で訴えかければ、鬼道は目を閉じた。



鬼道は夏を見る前に亡くなった。
入院して見舞いに行った最後の日のあの笑顔はつまり、そういうことなんだろう。



後腐れ無く笑える

(あのひとみが)
(どうか、覚えていて)
(と、そう願うなら)




***
こんなに考えたのは久しぶりってぐらい考えてましたこの話
3個目ですから……まとまんなくて焦った………

素敵企画に提出させて頂きました。


2011/5/29





back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -