おかしな、夢だった。
気付けば、見知らぬ少年を背中にのせて、高崎は走っていた。
場所は丁度上野を出たあたり。見知った場所だ。
「ねぇ、たかさき。」
「どうした?」
「いま、うえのをでたね。」
「お前、子供なのに分かんのか。」
「あたりまえだよ。ぼくは××だもん。」
声はよく聞こえなかった。
しかし、何故か子供の体温に安心して走りつづける。
ちょっと走った頃だった。
「たかさき、たかさき。」
「どうした?」
「今、赤羽をすぎたね。」
「おぉ、結構来たな。」
「まだまだ、だよ。」
「…そうだな。」
子供は楽しそうにはしゃぐ。
子供が楽しそうだと、俺も嬉しい。
そう言えば、さっきより体重が重くなったような
…。
「たかさき、風が気持ちいいね。」
「高さき、さっきの信号危なかったよ。」
「高崎、今の駅はもうちょっと速度落とした方が良いよ?」
少年から声がかかる。
その度俺は嬉しくなって、あれこれ返事をする。
はしゃぐ少年と俺。
そして、少年はだんだん重くなって
…。
『大宮 大宮 お出口は
』
駅のアナウンス、背中の荷が降りる。
正直、重かった。今では俺と同じくらいの青年の重さだ。
「高崎。」
後ろからの声、振り返る。
「高崎、僕もう行くね。じゃないと高崎、潰れちゃうから。」
「…宇都宮。」
「じゃ、また。」
そう言って彼、宇都宮はホームの反対から走って行ってしまった。
急に軽くなった背中に、また走り出せる自信は……全く無かった。
(一緒に走ってきた じかん )
(重く、重く、増えていった あいじょう )
( もう いっそ おしつぶして )
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