彼は、とある青年に恋をしていたのでした。


大きなお屋敷の大きなお部屋から、毎日彼はお城へ向かいます。
彼は宰相というとても偉い立場の人でした。
毎日お城でたくさんの仕事をして、毎日お屋敷に帰って寝るだけの日々です。
大事な大事な妹は遠くの貴族のお嫁に行ってしまい、彼は寂しく単調な生活に疲れてしまっていました。


そんな時、馬車からふと目を向けたとある家。
小さな窓がついていました。
窓の向こうに、この世のものとは思えないきれいな青年が居たのがみえました。


なんてきれいな人なんだろう。


彼は一目で青年を好きになってしまったのです。
青年の陶器のような滑らかな肌にふれてみたいと、青年の黒曜に映されてみたいと願うようになったのです。



それから彼は、お城への道を歩いて通うようになりました。

窓の前をゆっくりと通る度に、青年の姿が視界に入ります。

本を読んでいるか、眠っているかのどちらかでしたが、青年の日常を知れているのだと思えば彼はとても満足でした。



ところがある日、彼はめったに無い寝坊をしてしまい急いでお城へ向かったので、青年をみる事が出来ませんでした。
残念に思いながら仕事を終え、帰り道を歩いて窓の前へむかいます。

すると、あの青年が窓の向こう側からこちらを見ているではありませんか!
窓の外に一切目を向けていなかった青年が、こちらを見ているのです。

彼は動揺を押し殺して、いつも通りに窓の前を通ります。



その日、彼はいつになく幸福な気分で眠りにつきました。
彼の視界に入れたという事が、とても嬉しかったのです。

青年の存在は、彼にとって特別なものになっていました。

  








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