彼は小さな部屋に住んでいました。
とてもとても小さな部屋でしたが、彼は満ち足りていました。
本棚と机と椅子、窓にベッドの揃ったその部屋は、彼にとっては楽園でした。
ある日、彼は窓の外を通る人に目を奪われました。
その人は茶色い変わった髪型をしていました。
その人は透けるような白い肌をしていました。
その人はつり上がった真っ赤な宝石のような瞳を持っていました。
それはそれはきれいな男の人でした。
その人は、毎日窓の外を通ります。
朝と夕暮れ時の二回、彼はその人を見る事が出来ました。
どきどき。
どきどき。
その人を見る度胸が高鳴ります。
あの人はどんな声をしているんだろう。
あの人はどんなに暖かいのだろう。
彼はあの人のことで、頭の中がいっぱいになってしまいました。
一度で良いから、会ってお話してみたい。
彼はいつからかそう考えるようになってしまったのです。
その部屋は既に彼の楽園ではありません。
彼は部屋から出たくなっていました。
彼は、知ってしまったのです。
あまいあまい、禁断の恋の味を。
楽園カタストロフィー
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