こんこん、と部屋がノックされる
直後ガチャリとドアが開いた
「失礼します陛下……おや?いらっしゃいませんね」
入ってきたのは背の高い男性であった
さらりと長い黒髪に、黒い服、手には不気味に光る指輪をつけている
彼の名前はミラン・フロワードという
このローランド帝国の王様、シオン・アスタールに使えている者だ
そんな彼は手に沢山の書類を持っている
どうやら仕事を持ってやってきたようだ
だが、肝心のシオンは先ほど自分の友人であるライナ・リュートをいじめてくると言って出て行ってしまったばかりである
「アネモネさん、ずっといたのでしょう?なぜ陛下を止めなかったのですか?」
深い緑色の髪に赤い瞳、部屋の隅でひたすら何かを書いていたアネモネ・コンパラリアへフロワードは話しかけた
アネモネはゆっくり顔を上げると、ちょっと申し訳なさそうに
「あまりにも楽しそうだったので、その…止めるにも止められなかったんです…」
肩をすくめて言った
「まあ大体何をしに行ったか予想はできますが、ここのところ忙しいというに陛下は何を考えて…」
フロワードはやっぱり、というように彼女の近くへ腰掛けた、ちょっと疲れているようだ
「フロワードさんも大変ですね…次からは私も気をつけます」
「いいんですよ、無理はしないでください
貴女もここへ来て間もないのですから、わからないことが多いでしょう?今も、陛下に教わらずともこの国や世界について勉強している」
「ああ、これですか?結構面白いんですよ」
見ますか?とアネモネはフロワードに広げていた本を差し出した
「ほう……今は便利なものがあるのですね…」
彼はそれを受け取ると、ぱらぱらとページをめくった
「前は他国のことは密偵を送って調べたものでしたが、戦争が終わって平和になれば、こんなものが出てしまうのですね」
「魔法は相変わらず守秘義務みたいですよ」
「そもそも発生も機序も違いますから、そうかもしれません」
とん、とフロワードは彼女の机に本を戻す
その本には昔からは考えられないくらいの情報が沢山書かれていた
それは北にあるガスタークのことだったり、この国のことだったり
情勢や国の成り立ちや歴史なんかがぎっしりと書かれていた
その中には彼が知らなかったことも沢山書いてあって
「今の世の中も悪くありません」
そう言って彼は立ち上がる
「もう行ってしまうんですか?」
するとアネモネはそんな彼を見て、ちょっとだけ悲しそうな顔をする
「アネモネさん、一人は嫌ですか?」
「そう、ですね…今はちょっと誰かいて欲しい気分です」
「……仕方ありませんね」
彼女がそういうと、やれやれ、というように彼は再び椅子に腰を下ろす
そして彼女をじっと見つめて
「せっかくですあら私の話でもしましょうか?」
そんなことを言ってみる
「わあ、いいんですか?」
「でも私の話はあまり面白くないと思いますよ」
「そんなことないですよ、シオンさんが来るまでのんびりしましょう
フロワードさんも、たまにはゆっくりした方がいいですよ」
彼女は嬉しそうに笑った、どうやら話し相手が欲しかったようだ
彼女は何だか放っておけない気がする
何故だかわからないけど、きたときからそんな雰囲気
だからフロワードは彼女にどんな話をしようかとちょっと考えて
彼女にわからないように、ふっと笑ったのであった
ゆっくり回る時間だが浮かぶ話は陛下のことばかりだったりする
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