ポンポンと花火が上がり、体育祭当日

「よっし、ライナが敵でも頑張るぞー!」

「クラウやフロワードも同じ組だったんだな、頼りにしてるよ」

「はい、陛下」

「何でお前はシオンを呼ぶときはその呼び方なんだ?」

わいわいと賑わう会場

士気も上々だ

そんな中でライナは思い切りのびをした

結局あのまま今日のことを話せず仕舞いだったのが少し心残りであったが

今日はフェリスに殴られないために頑張ろうかな、なんて彼にしては珍しくも考えていたりした

因みにフェリスは現在、自分の両親と会話している

隣には兄のルシルや妹のイリスもいるようで、何やら盛り上がっているようだった

「ライナ♪」

じっとフェリスの方を見つめていると、目の前に見慣れた少女が立った

ミルク・カラード、それが少女の名前

亜麻色の髪を後ろでくくり、ポニーテールにしている

そんな彼女もライナが大好きであった

「おぉ、ミルク…お前同じ組?」

「うん!ルークも一緒だよ!」

「お世話になります、ですが隊長は渡しません」

二人が話している中に白髪の男が割って入ってくる

彼こそがミルクが言っていたルーク・スタッカートその人であった

「相変わらず過保護だねぇ」

「ルークだ〜!でも何でいつもルークは私を隊長って呼ぶの?」

「色々あるのですよ」

ルークはミルクの頭をくしゃくしゃしと撫でながらライナを睨んだ

ミルクと話していると必ずと言っていいほどルークは割って入ってくる

学校でも保護者だの保父さんだのと囁かれていたりする

彼は特に、ライナに対しては他の人と比べて一層視線が痛かったりした

「あ、あ〜…んじゃ俺は行くね?」

頑張ってな、とミルクに言ってライナはその場を去った

ミルクはありがとうと手をぶんぶんふった

「隊長、あの男のどこがいいんです?」

「んとね、優しいところ!」

無邪気な笑顔にルークは悩殺される

毎日この笑顔を見れたら、それで幸せである

だから、自分が彼女を守るのだと

笑顔を守るのだと、決めていた

「あの、すみません」

と、そこへ見知らぬ女性から声をかけられた

「はい、何でしょうか?」

「ここ、小手毬学園であっていますか?」

「えぇ、あっていますよ」

ありがとう、と女性は礼を言い、微笑んだ

その笑顔はふわりと広がり、周りの者が思わずうっとりとしてしまうほど、美しく可憐であった

「誰かのお母さんかな?」

「どうでしょうね…」

ミルクとルークは会場の中へ入っていく女性を見ながら、そう呟いたのであった





「お待たせ」

「早かったわねリューラ、二人で抜け出すなんていつ以来かしら?」

「割と頻繁に抜けている気もするんだけどね」

そう言いながらぽすん、とシートに腰をおろす

今は障害物競争のようで、生徒はネットをくぐったり、平均台を渡ったりと必死に走っていた

「ライナは?」

「最後のリレーにしか出ないらしいわ」

「あいつらしいなぁ」

隣に座りあって彼らは自分の息子がどこにいるのか探す

すると端の方でうたた寝しているようで

フェリスにそれを小突かれていたりして

「あの子達いつも仲良しね」

「仲良しなのはいいことさ、友達は大事にしないとね」

「そうね」

食べる?とリューラの前にサンドイッチが差し出された

「ありがとうイルナ」

イルナ、と呼ばれた女性はにこりと笑った

サンドイッチは彼女の得意料理で、リューラが研究をしながら片手間に食べられるようにと、彼女が考えて作っていた

「相変わらず絶品だなぁ」

一口食べれば、ほんのりと甘さが広がる

彼はこれを食べる時にいつも自分は愛されているなぁ、と思う

「愛も一緒に挟んだの、なんてね」

イルナも自分で作ったものを頬張りながら冗談めかして言った

だが、きっとそれは本当のことで

嬉しくて思わず顔がにやけてしまうリューラであった





リレーはすぐにやってきた

と、いってもライナはずっと寝ていたので、どっちの組が勝っているかなんていうのはわからないのだが

自分にバトンを繋いでくれるのはどうやらフェリスのようで

現在、彼女が独走して自分に迫ってきていた

「ライナ」

「うん?」

「手加減はお互いなしの方向で」

同じくバトンを待っているシオンはライナにそう言った

「そう?お前がそう言うなら」

ライナは彼を見てにやりと笑って

「頼んだ」

フェリスがそう言いながら差し出してきたバトンを受け取って

「俺走っちゃうよ?」

そう言って走りだした

シオンもバトンを受け取ったようですぐ後ろに迫ってくる

でも彼の計算だと自分が変なことをしない限りリードは保っていられるはずで

負けることなんてないはずで

おまけにフェリスに殴られないのであれば万々歳である

だから、思い切り走るために、さらに足に力を入れたのだった

「ライナ!」

ゴールが迫る中、ふいに声が響いた

ここにいるはずのない、声が

「父さん!?」

そう、自分の横にはカメラを構えてライナを撮りまくっているリューラの姿があった

「いいね!ばっちり写真におさめるよ!」

「ちょ、何でいるの?」

仕事だろ?とライナは聞いた

「それなんだけど、抜け出してきちゃった☆母さんもいるよ」

「おいおい、いいのかよ」

「いいんだよ、ライナのためだもん」

それにライナは胸がドキっとした

まさか来てくれるなんて思わなかった

昨日仕事だと言っていたのだ

だから話もしなかったのに

来てくれて

「シオンくんに感謝しないとね」

「何?あいつが教えてくれたの?」

「うん、朝大学に連絡があってね、ぜひ来てくれって言うから」

そう言ってリューラは笑った

相変わらず手元ではシャッターを押しまくっている

本来ならばここで突っ込むところだが、ライナは嬉しくてできなくて

「ありがとな…」

それだけ言って

スパートをかけようと意識を目の前に向ければ

「ゴール♪」

丁度、シオンがゴールテープをきったところが目に映ったのであった





「親父さん、きてくれたんだね」

「あぁ」

「写真撮られてたね」

「うるせー…」

走り追えた後、シオンとそんな会話をかわす

「シオン」

「うん?」

「ありがとな」

どうやら父親の話だとシオンが声掛けをしてくれたらしい

だから素直に礼を言った

「いいって、それよりさ、逃げなくていいの?」

「逃げる?」

「私からか?」

シオンはあーあ、と困った顔をした

ライナは自分の後ろに立っているであろう人物の顔を思い浮かべて青くなった

そうだ、自分は走る前までちゃんと覚えていたではないか

負けたら竹刀で叩かれるのだと

「ちょ、おま…じ、冗談だろ?」

「これか冗談に見えるか?」

ライナはくるりとフェリスの方へと振り返り、ゆっくりと後退りした

彼女は竹刀を肩に担ぎ準備万端である

「うん、フェリス、思い切りやったらいいよ」

そこでシオンも悪のりしたのか、ライナの両腕を掴み、これ以上動けなくする

「裏切り者ぉぉぉ!」

ライナはその場でじたばたともがいたが無駄な努力のようだった

「逝ってこい!」

「はぁ……もういいや……」

諦めた、と彼はため息を吐いて、フェリスの重たい一撃を食らったのだった





「三人で並んで帰るなんて、久しぶりだね」

「ライナ痛い?帰ったら冷やそう」

「うぅ…色々酷い目に遭った…」

体育祭は自分が気絶している間に終わったようだった

気が付けば両親が心配そうな顔で、自分を見下ろしていた

「フェリスちゃんに叩かれたんでしょ?容赦ないわね」

「それは愛だよイルナ」

「まぁ!ライナは沢山想われているのね」

今は家路の途中

「あれって愛なの…?」

「そうだよ」

「フェリスちゃんなりの照れ隠しね」

「俺にはそうは見えない…」

ゆっくりと歩きながら三人で話す

わざわざ抜け出してまできてくれた両親に感謝しながら

他愛無い会話でも、それは嬉しくて

ついつい心が踊ってしまって

「父さん、母さん、いつもありがとな」

「また今更何を言ってるんだ?」

「そうよ?私達もライナからいっぱい大事なもの、もらってるもの」

改めてそう言えば、二人に言い返されてしまって

「私達の可愛いライナ」

「帰って夕飯にしよう」

でも

自分はこの二人の息子でよかったと

生んでくれてありがとうと

そう思って

「俺、サンドイッチがいいな」

ライナは二人の手をぎゅっと握った

三人の影は仲良く重なって

沈みかけた夕日がそれを優しく映していた




[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -