窓から日が差し込んだ

その眩しい光に誘われて、彼女はそっと目を開ける

「ここは……」

どこだろう

見たことのない部屋である

そもそも自分はさっきまで何をしていたのだろうか

キョロキョロとあたりを見回して、寝ていたベッドから身体を出す

窓から舌を見れば、大きな街が広がった

「見たことない…」

知らない場所、それだけで身が固くなる

「どうやら、起きたようだね」

と、そこへ誰かがやってきた

丁度彼女の真後ろである

ぱっと振り向くと、そこには背の高い男性が立っていた

銀の髪に金の瞳、その高貴さを思わせる容姿は誰の目をもひきつける

「そんなに緊張しなくてもいいよ、ごめんね驚かせて」

そんな彼はにっこりと笑って、持っていた荷物をベッドへと置いた

「君は砂漠に倒れていたんだ、放っておけなかったからつれてきたんだけど…」

「砂漠…」

「そう、砂漠、中央大陸にある砂漠だよ」

男性にそう言われても全く記憶に残っていない

でも話をよく聞けば自分は誰もいないのに砂漠で倒れていたのだという

彼は自分が死んでしまわないようにと助けてくれたのだという

「あの、ありがとうございました」

「礼なんていいのに」

「私、アネモネといいます
アネモネ・コンパラリアです」

「アネモネ…か、いい名前だな
俺はシオン・アスタール、シオンでいいよ」

にこり、とシオンは笑った

「替えの服はここに置いておくよ、詳しい話は君の準備ができてから」

「は…はい…」

アネモネはこくりと頷いた

知らない場所だが、どうやら自分は優しい人に助けてもらったようである

シオンは外で待ってるよ、と言って出ていってしまった

アネモネはどうしようと思いつつも、そっとベッドの上の服に手を伸ばした





「思った通り、似合ってるね」

部屋からでてきたアネモネを見て、シオンはそう言った

「こんな…高いんじゃないですか?」

「ああ、その辺りは気にしなくていいよ」

俺がやりたくてやったんだから、とシオンは笑った

「髪は結わないのかい?」

「そうですね…結ってもいいんですけど止めるものがないです」

「なるほど…じゃあこれを使ったらいいよ」

目の前に手が差し出された

中には鮮やかなピンクのリボン

「それで髪を結ったらいいよ、君に似合うんじゃないかと思って持ってきたんだ」

シオンはそう言ってアネモネの髪をすくいとり、サイドでまとめた

彼女の髪は長い上にくせっ毛なのか、毛先がくるくるとカーブする

「ほらやっぱり、思った通り」

可愛いよ、とシオンはアネモネの頭をぽんと叩いた

「よし、じゃあ君の話は歩きながらでも
せっかくだし、俺の友人達を紹介するよ」

そしてシオンはそのままくるりと背を向け、歩きだす

アネモネも慌てて遅れないように彼の後へと続いた

さっきまでは不安だったのに

なぜか胸が高鳴って

ちょっとドキドキした

アネモネがしばらくシオンの後をついていくと、開けた場所へ出た

そこには椅子が一つと天井には豪華な装飾

「シオンさんて、お金持ちなんですか?」

「んーどうかな?」

等と思わず思ったことを聞いてみるが、何となく誤魔化された

「さあ、もうすぐ彼らがくるはずだから」

「さっき言っていたお友達ですか?」

「そうそう」

そんな会話をしていれば、自分達の通ってきたドアが再び開く

入ってきたのは、寝癖のついた黒髪に眠そうな黒目の長身の男と金の髪を腰まで垂らした美しい女性

彼らはシオンのところへやってきて、そして不思議そうにアネモネをじっと見つめた

「シオン…お前…」

「ん?この子のことかい?昨日ライナ達にはちゃんと話したじゃないか」

「なるほど、ついに貴様もライナのように女性を無差別で襲うように…」

「って、俺んなことしてねぇ!?」

「うむ」

「あ…そう…」

ライナと呼ばれた男性はがくりと肩を落とした

女性は満足そうに頷いてシオンに向き直る

「それで……そいつがお前が連れ帰ってきた」

「アネモネだよ、さっき教えてもらったんだ」

「アネモネか、私ほどではないが中々いい名だな」

女性はアネモネの前に手を差し出し握手した

「彼女はフェリス・エリス
ライナの相棒だよ、二人とも俺の親友なんだ」

シオンはそんな風景を見ながら微笑む

「ああ、それと」

そして何かを思いついたように、くるりと後ろを向いて

「ルシル?」

そう一言

すると何もない空間から、ゆっくりと何かが浮かび上がる

それはどうやら人のようで、フェリスと同じ色の髪をした男性だった

「おや、僕はもしかして紹介されるためだけに呼ばれたのかな?」

「そんなところだ、わざわざ悪いな」

「構わないさ、今はみんな解決して平和だしね
それに僕もたまには顔を出さないと」

現われた男性はそう言ってフェリスへ笑いかけた

確かに、言われてみれば似ているかもしれないとアネモネは思った

「兄様、相変わらずだな」

「フェリスも」

実際二人は親しそうに話している

兄妹というのはどうやら本当のようだ

「アネモネと言ったね、僕はルシル・エリス
王の後ろからずっと見ていたよ」

「えっと、…って王?」

アネモネはシオンの方へばっと振り返った

「あぁごめん、言ってなかったっけ?
俺はシオン・アスタール、このローランドの王様さ」

我が城へようこそ、とシオンは爽やかに笑った

「シオンさんが王様!?」

アネモネは驚いたように後退りした

「そうなんだよ、びっくりだろ?ありえねーよな、ホント」

「全くだ、この仕事に狂った奴が王様だなんてこの国もおわっているな」

ライナとフェリスはそんな彼女を見て、にやにやしながらそう言った

「二人は酷いなぁ…そんなこと言ってると仕事押しつけちゃうぞ?」

それを機器ながら、シオンは楽しそうに懐から紙の束を取り出した

「げ…マジで仕事バカ…」

「まさかここまで持ってくるとは…流石だな」

ライナ達は感心したような呆れたような表情でその紙の束を見つめた

シオンはそれをすぐにしまったのでよく見えなかったが、どうやら結構急いでやらないとダメな案件のようで

「ったく…お前ってホントこういうのうまいよな…
仕方ないから手伝ってやるよ」

ライナはぽりぽりと頭をかきながらそう言った

ルシルは気が付けば姿が消えていて、アネモネは思わず辺りを見回したがやっぱり見つからなかった

「兄様は神出鬼没だからな、仕方ない
それよりも食べるか?」

フェリスはアネモネへそう言いながらだんごを差し出した

だんごは彼女の好物なのだ

「ありがとうございます」

アネモネはだんごを受け取って口に含んだ

ほろりと甘さが広がった

「さっきアネモネが寝ていたところが執務室だよ
ごめんねホントは別に部屋を用意したかったんだけど…今ばたばたしててね」

廊下を四人で歩きながらそんな話をする

どうやらアネモネが寝ていたベッドはシオンが仮眠に使う物だったようだ

何だか知らぬうちに自分が邪魔をしてしまった気がして、申し訳なく思いながらも彼の優しさが嬉しかった

「そういやお前これからどうすんの?」

「もご、むごもごむ…ごくん…のか?」

「最後だけわかっても意味ないからな?」

フェリスはだんごを口に含みながら喋る

ライナはもはやそんなことには慣れっこのようで、突っ込みすらもしない

「うむ、ここにすませてもらうのかと私は言ったぞ」

「ああ〜なるほどね?いい考えじゃねぇの?」

「それは思いつかなかったな…流石フェリス」

フェリスのアイデアに二人は同意のようだ

「あの、そんな悪いです」

「気にするなって、俺達の王様は優しいんだ
どこか帰る場所もないんだろ?いいじゃんここに住めばさ」

アネモネはどうも話についていけないのだが、どうやらトントン拍子に話が進んでいるようで

ライナがアネモネの肩をぽんと叩いた

「じゃあ決まりだな、アネモネはここに住む」

「でも…」

「でもじゃなくて住むんだよ」

カチャと執務室のドアをあけながらシオンが悪戯っぽく笑う

「恩人の言うこと聞いてくれないのか?」

と、その後言った一言は効果滴面だったようだ

アネモネはうっと言葉につまった

「確かに私はどこにいたとか、どこからきたとか、全然覚えてないですけど…」

「じゃあ尚更だよ、もう君はこの国の人…いや、俺の友達だから」

「友達…」

「不満かい?」

「いえ…」

嬉しいです、とアネモネは笑った

「今度こそ決まりだな、早速手配させるよ」

「ありがとうございます、だけど」

「うん?」

「よければここで働かせてほしいです」

シオンはアネモネの申し出に驚いたようだ

「だからそれはもういいんだっていったろ?気にしないでいいんだよ」

「けど私なりにシオンさんに恩返しというか…私だけ何もしないのも嫌ですし…簡単なお手伝い程度でいいですから」

ダメですか?とアネモネはちょっと淋しそうに言った

「……ここで俺の書類を一緒にするとかなら、うーん…でもなあ…まあいいのかなあ」

シオンはどうも悲しそうな顔に弱いようだ

困ったようにそう言って頬を掻いた

「シオンの仕事を手伝うってことは俺達の仕事減るんじゃね?」

「なるほど、その考えはなかったな…ナイス働きだアネモネ」

「はあ…」

どうやらアネモネの頼みはライナ達に歓喜をもたらしたようである

肩を思い切り叩かれた

「そんなこと言っても、仕事はやってもやっても終わらないけどね?」

シオンは自分の机に積み重なった紙の束を指差した

ライナは何かを思い出したのか、ちょっと後退りをした

「また徹夜とか言うなよ?」

「大丈夫だよ、ライナ以外は」

「はああああ!?お前ふざけん…」

「フェリス、団子三箱」

「うむ」

ガツンとライナの後頭部をフェリスは殴打した

ライナは勢い余って地面につんのめる

「ぎゃああああああ!?って何するんだよ!」

「だんごのためだ、すまない…」

「すまないじゃねぇ!?」

ライナは元気そうに起き上がり、フェリスにぶーぶー文句を言っている

「あの、ライナさん大丈夫なんですか?」

「うん、これくらいじゃあびくともしないよ」

「皆さん仲がいいのですね…」

「アネモネもすぐに馴染めるよ、とにかく」

座ったら?とシオンは近くにあった椅子をアネモネの目の前に置いた

「まあ俺達の毎日ってこんな感じだよ」

シオンはそう言って笑ったのだった




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