その日はバタバタと騒がしかった

「ん〜?何だぁ?」

眠そうな目をした、黒髪の男、ライナ・リュートは廊下を歩きながら首を傾げた

彼は現在、ローランド帝国にある城の中にいる

これから友人に呼ばれたので会いに行くのだ

その友人がいるであろう部屋に、彼は向かっている最中だった

「シオン入るぞ〜何かバタバタしてるな?」

ガチャリ、とドアを開けて部屋に入る

中に入って真っ先に目に飛び込んでくるのは書類の山

崩れたらその紙の束に押しつぶされてしまいそうなくらいの、大量の書類

「まぁたお前は仕事に狂ってんなぁ…ちょっとは休めよ」

と、ライナは一番奥に腰掛けてせっせと書き物をしている銀髪金目の男へと話しかける

彼はシオン・アスタール、この国の王様

そしてライナとは親友であり悪友である

そんな彼はライナに笑いかけて

「丁度いいところに来た、今どうしてもやらなくちゃいけない仕事が入ってきてさ、城中が慌ててるんだ」

よかったら手伝ってよ、とそう言った

「やだよ、また寝ないで仕事しろって言うつもりだろ?」

ライナはめんどくさそうにそう言うと、近くの椅子にどかっと座った

「あれ、よくわかったね?」

「ばればれだっつの」

「あは♪でもさ、これ今やらないとダメなんだよ」

「はぁ?またどうして」

「俺、明日一日休みもらおうと思ってるんだ」

だから、これ終わらせないともらえないんだよね、とシオンは苦笑した

「え?何?お前明日休むの?」

「うん」

ライナはそのシオンの発言に驚いたのか、眉をあげた

だって、彼がいつも見ているシオンは仕事バカで仕事が大好きで仕事をやっていないとダメなのだ

おまけに自分や自分の相棒であるフェリスに意地悪するのが大好きな、悪魔なのだ

だけどシオンは明日休むのだという

だから仕事を終わらせなくてはならないのだという

「あ〜もう仕方ねぇなぁ…」

ライナはどうもそういったものに弱いようだ

頭をかきながらシオンの隣に椅子を持って行き、書類に目を通し始めたのだった





翌日、シオンが休むのだという日

ライナは彼に呼び出された

でもライナがいるのは執務室の前である

それはどう考えてもシオンの仕事部屋で

「おかしいな、俺、耳が悪くなったのかな」

なんてライナは昨日のシオンの言葉を思い出していた

だが、とりあえず彼は部屋に入ることにする

立っていても何も始まらないのだから

また書類の山があるのだろうか、とかうんざりしながらドアを開けると目の前にはケーキ

「って、ケーキ?」

拍子抜けしたのか、間抜けな声が上がってしまった

「いらっしゃい、ライナ」

でもやっぱりそこにシオンはいた

けれど、何だか料理とか綺麗に包装された箱などを運んでいる

「何してんの?」

ライナは思わず聞いた

「あぁ、これね、記念日?」

「記念日?」

「そうそ、俺とライナが初めてあった日っていう、記念日」

素敵だろ?と、シオンはにやりと笑った

ライナは口が開いてしまって、それが閉まらなかった

だって

だって、こんなことのためにあいつは仕事を休んだのだ

大事な仕事を、自分のために休んだのだ

でもそれはとても暖かくて、嬉しくて

「今、俺の中でお前への価値観が変わったかも…」

なんて思わず口から漏れてしまって

シオンはそれを聞いて思わず動きを止める

そして

「ははっ何だよそれ、ちょっとは頼れる親友くらいになったか?」

そう言って笑った

「今日はさ、二人でゆっくりしようと思って
まぁ、ライナさえよければフェリスも誘おうかと思ったんだけど…せっかくだしね」

「お前…」

「ん?」

「覚えててくれたのか」

「勿論さ、俺達友達だろう?」

大事にしなきゃなんだよ?とシオンは言う

ライナは何だか熱いものが身体の奥からこみ上げてくる気がして

それをばれないように必死で抑えて

「シオン」

「何だい?」

「ありがとな」

そう一言

言って、笑った

その日の料理やお菓子は、少しだけしょっぱかった気がした




今日は記念日
出会えてよかったよ、なんて







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