「起きてリューラ」
うつらうつらしていると肩がゆすられた
うっすらと目を開けると朝の日差しがとても眩しい
それをバックにして一人の女性が自分を見つめている
彼の、このリューラ・リュートルーの最愛の妻イルナである
リューラはベッドからむくりと起き上がって彼女へ微笑みかけた
「おはようイルナ」
「おはようリューラ」
イルナもそれににこりと笑って挨拶する
「朝早くからどうしたんだい?今日僕はおやすみで、ゆっくり寝たいって言った気がしたけど」
「ごめんなさい、でもこれがライナのカバンに入ってたから」
イルナは申し訳なさそうに一枚の紙を差し出した
それはどうやら保護者向けのたよりのようでこう書いてある
【授業参観のお知らせ】
「これ、日付今日だよ?」
「さっき見つけたの、ライナはフェリスちゃんに引きずられてもう学校へ行ったわ」
「そっか」
リューラはじっとその紙を見つめる
そしてゆっくり立ち上がって
「ライナは、遠慮したのかな?」
「忙しいからと思ったのかもしれないわね、行ってきたら?」
「僕が行って怒られない?」
「大丈夫、こんなこともあろうかとお弁当をカバンには入れないでおいたから」
届けに行ってきて?とイルナは手に持っていた包みをリューラへ渡した
「さすが……行ってくるよ」
リューラはそれを受け取って嬉しそうに笑った
☆
「だりー…」
ばたりと机に突っ伏した
眠たそうな瞳がさらに閉じられる
朝早くから近所の…というかお向かいさんのフェリスに叩き起こされ部の朝練へ付き合わされたのだ
普段から寝ても寝ても寝たりないのに、今日は殊更である
「ライナ眠そうだね…」
机にカバンを起きながらクラスメイトのキファは笑った
「ライナったらねぼすけさんだなあ
でも今日は寝てられないぞ?」
「んあ…シオン…今日なんだって?」
「だから寝てられないって」
「はあ?また何でだよ」
「今日授業参観だよ?親御さんいっぱいくるからさ、寝てたら注目の的だよ」
シオンは椅子にもたれかかって腕を組む
何だかちょっとさまになっているのが憎い
ライナは授業参観と聞いてこの間もらったプリントのことを思い出した
しかもうっかり出し忘れた気がする
「あ〜…俺、見せてないや」
「また忘れてたの?」
「そうそ」
「イルナさんに怒られるぞ?」
「母さん…いやむしろ父さんが」
どうかなあ、とライナは顔をシオンの方へ向けてもごもご言った
そこで授業開始のチャイムが鳴り、がらりとドアが開く
会話はそこで打ち止めとなり、ライナは結局のところ眠さに負けてそのまま意識を沈めたのだった
☆
とんとん、と肩を叩かれた
もうろうとする意識の中、ライナは聞き慣れた声を聞く
「来ちゃった☆」
もうこれだけで眠気は吹っ飛んだ
がばりと顔をあげると、自分の父親がにこにこして目の前に立っている
「何でいるわけ?」
「開口一番にそれかい?父さんショックだなあ」
はいお弁当、とリューラは机に持っていた包みを置いた
「忘れたでしょ?届けに来たよ」
「…忘れたら購買で買うから平気だって」
「またまた、どうせ昼も寝てるんだろう?」
「それは私が毎回起こしてますから大丈夫です」
「なんか、うちの息子がいつも迷惑かけてるみたいで悪いなあ」
「そ、そんなことありませんよ」
嫌そうな顔をするライナの横で、照れたように手をもじもじさせてキファがあたふたしている
リューラはそれを見て目を細めた
自分の息子は愛されているのだなあと思う
こうやって想ってくれる人がいて、どんなに幸せだろう
「授業参観って聞いたからついでに見ていくね?」
そう思いながら、リューラは頑張ってとライナに言って後ろでわいわいしている保護者達の中へと入っていった
「うわ、ホントに寝れないじゃん…フェリス今何時間目?」
「うむ、3時間目だ」
まだまだ先は長そうだとライナは思った
それから後はライナが珍しく起きているのをいいことに、授業をする教師達はことごとく彼を指名し
「じゃ、この問題前に来て解いて」
と凄く楽しそうにそう言った
何だか普段寝ていることのつけがきているようで、ライナはうんざりしながら前へ出てチョークで数式やら文法やら書き入れる
彼は元からできる奴、であるが寝てばかりいるために授業にいまいちついていけない
だが今回は授業開始から頑張って起きているため、その時間内にやったことならばその場で解けるのだ
「ライナ凄いじゃん、親父さん後ろで泣いてるぞ」
「俺もやりゃできるんだって、つーか……何で泣くわけ?」
「それは本人に聞けばいいじゃない」
「えー」
席に戻るとにやにや笑うシオンとひそひそ会話した
見ると本当にリューラは涙ぐんでいて、ライナはどうしようかと思った
「あー…そいや皆は誰か美に来てんの?」
「うん、私はお姉ちゃんが」
「父様と母様どちらも来ているぞ、気配はけしているようだが」
「俺は……さっきまで母さんが、ちょろっと来てたよ」
それぞれ見に来ている人は違うようだが、皆嬉しそうである
ライナも、実は何だかんだいってちょっと嬉しい
普段は大学の研究室にこもりきりのリューラが、休みを返上してきてくれたのだ
感謝しなくちゃなのかもしれない
「ライナはやっぱり親父さん大好きなんだな」
そんなことを考えていたら、シオンに笑われたのだった
☆
「いやあ、ライナ楽しかったよ」
「あ…そう…」
授業参観は午前でおわったので午後はたっぷり眠った
途中キファにつつかれたが、ライナは全く動揺しなかった
目が覚めればどっぷりと日が暮れていて、ちんたら家に戻ったら満面の笑みで出迎えられる
「リューラから聞いたわ、ライナ今日凄かったんだって」
「いや、全然凄くないし」
「そんなことないわよ、ちゃんと起きてたんでしょう?」
「あー…」
ライナはぽりぽりと頬をかいた
「あのさ」
「どうしたの?」
「プリント、出さなかったのに」
「お母さんのカンでカバンを見たらでてきたの」
「そっか…えと、あ…ありが…」
そして最後は消え入るような声でお礼を言った
「いいんだよライナ、僕も学校でのライナを見れて嬉しかったから」
「次は私が行きたいわ」
「そうだね、イルナも今度行くといいよ」
リューラとイルナはそんなライナを見て顔を見合わせ
「さ、夕飯にしましょう」
「今日はちょっと豪華だよ、僕も少し手伝ったんだ」
そして、ライナに笑いかけて
ライナもつられて口の端がちょっぴり上がったのだった
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