「君たちに頼みがある」

小手毬学園後頭部生徒会長、銀髪金目のシオン・アスタールは数人の生徒を呼び出してそう言った

「俺はライナ・リュートとフェリス・エリスを生徒会にぜひ加えたいんだ」



さらに一呼吸おいて

「うまく彼らを生徒会に入れてくれたら、特例で単位あげちゃう♪」

そう言ってにっこりと笑った

これは悪魔の微笑みだ

シオンが腹黒だなんてことは学校中に知れ渡っている

といっても、本人は知っていてやっているのだが

だからこの誘いに乗れば、なんとなくろくなことにはならないのは見えているわけで

自分達にあまり利益がないのも見えているわけで

けれど、その「単位」という甘い響きに彼らは油断する

「いいわ、あたし受ける」

「え?マジ?じゃあ俺も…」

「だ、だったら僕も一緒だよ」

三人は思わず了承し、残りの二人もそれを見て…

「ふっ、わらわにできぬことはない」

「お手伝いしますよ!」

つられて返事をする

シオンはありがとうと再び笑った

とっても爽やかな笑顔で

ライナ達がまた苦労するのがちらりと見えた気がしたが

そんなことは頭の端に寄せておいた





通学路、そこは何の変哲のない道

だが時として面倒なことが起こることもある

寝癖がまだ取れ切っていない黒い髪に眠そうな黒い瞳

長身であるはずなのにそれは丸められた背中により台無しだ

そんな風貌をした小手毬学園高等部二年、ライナ・リュートは今、まさに面倒臭いことに巻き込まれていた

何せ朝っぱらからうるさいのだ

教室に行って机で爆睡しようと思っていたライナは物凄く嫌そうに顔をしかめた

「んで?俺に何の用?」

「生徒会に入りなさい」

「そうだそ姫の言うとおり」

「悪いことは言わないから入った方がいいと思うよ」

目の前には見知った顔が三人いる、しかも同じクラスの

そいつらが自分にぐだぐだと言うのだ

「断る、あいつの下で働くなんてごめんだね」

ライナはふるふると首を振った

だって役職なんてもう既に決まっているに違いないのだ

だから今更入ったところで下働きで雑用なのだ

そんなこと、自分が寝る時間を割いてまでやる気にはなれない

ライナは後ろにじりじりと後退しながら、逃げるチャンスを伺った

「あら、ライナ逃げるの?」

「当たり前さ」

「ふぅん…」

ジトッとライナを睨んでくるのは整った顔立ちに勝ち気な瞳

先天性魔導異常という能力者の彼女は、その証拠であるように珍しい水色の髪を長くのばしている

この能力者は魔法のコントロールがうまくできなく、他者との協調性に欠けるというような障害が生ずる

しかし彼女は強靱な自制心によって、それを上手く抑えていた

「まぁあんたが逃げるならあたしはいいけど…ゾーラとペリアが容赦しないわよ」

ピアは腰に手をあて、ふふんと笑った

すると先程から彼女の後ろに立っていた二人が前に出る

柔らかい金色の髪を肩まで伸ばしているのは、ペリア・ペルーア

彼はいつも目を閉じている

彼は目が見えないのだ

しかし彼はとても勘がよく、見えている人のようにすたすたと歩く

その横には明るめの茶色い髪に青い瞳をしたゾーラ・ロムが立つ

彼はピアとペリアとよくつるんでいる

因みにライナに何かある度につっかかってきたりしるので、彼が絡んでいるということがさらにめんどくさそうな香りを強調した

「お前らシオンに何言われたかわからないけど…あいつの性格知ってるだろ?何でまたこんなことしちゃってるわけ」

と、ライナは後退りしながらも三人にそう聞いた

「何ってそりゃ、あれだよ、単位が…」

「ゾーラいきなりそんなこと言うのはどうかと思うよ」

ライナが三人に聞くと、ゾーラはそう答える

しかしペリアはそれを止める

あまり知られたくないようだ

「単位…単位ね…シオンめ、また魅力的な単語をひっぱってきたな…」

「そういえば入ったらあんたにもくれるらしいわよ」

「マジか!って騙されないぞ」

ピアはゾーラを軽く小突いてから、ライナに甘く囁いたが彼はスルーした

なんかこういうことで毎度うまく使われているような気がしたからだ

じりじりと後ろに下がっていると、急に背中に何かがぶつかった

「んあ?」

さっきまで目の前の相手と睨み合っていたのだ

背中の感覚に気が抜ける

ゆっくりと振り向くと、そこにはまた見知った顔がいた

一人はまた同じクラスだ

他にもう二人ほどいる

そちらは自分達よりも一つ下の学年のようだった

「何だ、だれかと思えば色情狂か」

「…フェリス、おはよ」

「うむ」

瀬名か越しに会話する

彼女は自分の家の真向いに住むエリス家の長女、フェリス・エリス

ライナとは腐れ縁の同級生であった

「お前もあの極悪非道の生徒会長に何か言われたクチ?」

「生徒会に入ればだんごをくれるらしい、と…あいつらが言っていた」

「うわー…お前それ絶対嘘だぞ」

「うむ、だから断っていたのだ」

と、フェリスは言った

「でも入って頂かないと僕達も困るんですよ」

「単位が手に入らぬ」

どうやら彼女の言ったことが聞こえたのか、フェリスの前にたっていた男女は、ピア達と同じ事を言った

二人組の男性の名は、シルワーウェスト・シルウェルトという

通称シルと呼ばれる彼は、綺麗に整えられた黒い紙、意志の強さと誠実さが感じられる理知的な瞳と中々の好青年

しかし肩にはぬいぐるみ

ピンクのぶたのぬいぐるみ

しかもこれは喋って動くのである

「私の主人を困らせるな」

「いや困ってるのは俺達だから…」

でもそんなことには誰も突っ込まない

ライナも勘弁してと肩をすくめるだけであった

もう一人の方の女性はエステラ・フェーレル

実は彼女、この間転校してきたヴォイスの姉である

フェリスと並ぶように、彼女もまた、美しい

整った顔立ちに艶やかな黒髪が、白い肌を際立たせていた

この二人はライナ達より一つ下、つまり一年生であった

「まぁ話をまとめればお前らはシオンに雇われて、俺とフェリスの勧誘に成功したら単位をもらえると」

「そんなもんだな」

「お前ら乗せられすぎだぞ?あいつ誰だと思ってんだよ」

「腹黒生徒会長でしょう?」

「うん、まぁそうね?」

ライナはそう言いつつも、どうやってこの場を逃げ出そうか考える

後ろにはフェリスがいて、その彼女の前にはシルとエステラがいて

自分の方にはピア達と八方塞がりである

フェリスもどうやらライナと同じ事を考えているようで、何となくだが難しい顔をしている気がした

「確か魔法も緊急時じゃない以外、使っちゃいけないことになってたしなぁ」

使えたら、身体能力をあげてフェリス連れて逃げるんだけど

「でも学校に行ったらシオンいるしなぁ」

家に帰ってもしつこくやってきそうだし

というわけでライナはフェリスにちょっと計画を持ちかける

「なぁフェリス」

「何だ?」

「ここ、正面突破してシオン倒しにいこうか」

「ふむ…名案だな」

すると彼女はその提案をあっさりと飲み込む

利害は一致したようで

フェリスは背負っていた竹刀に手を掛けたのだった

「ほいじゃ、一瞬道あけてくれるだけでいいから」

「わかった、後でだんご三箱を要求する」

「へーへー…」

ライナがやっぱり自分の財布からお金が飛んでいくのかとうんざりしていると、フェリスは既に行動を起こしていて

「峰打ちだぞ」

何ていいながらゾーラに殴りかかっていた

「ちょ、武器反そ…ぎゃああぁぁ!?」

「うわ、本当に殴った…」

「あたしも見習わないとね」

「そ、そういう問題じゃなくないかな?」

どさりと倒れるゾーラをペリアとピアは見つめていた

その横をライナとフェリスは疾走していく

「追い掛ける?」

「別にいいわ、あたし飽きちゃったし」

なんて彼らを身ながら二人はそんな会話を交わした

追い付こうと思えばたやすいのだ

後ろにいるエステラとしたの力をかりれば、さらに裏で手回し、なんてことも可能なはずで

だけど彼らはしなかった

「わらわ達が何もしなくても、生徒会長のところへ行ったのなら、結果は見えておる」

「それもそうよね」

気絶しているゾーラをよそに、四人は顔を見合わせた





「シオンてめぇ!」

がたんと勢い良くドアをあけた

すると一番億に座っていた影はそれに反応してたちあがる

「二人とも一緒か、早かったなぁ…皆はわざと俺のところによこしたのかな?」

なんて言いながら、かつかつとドアをあけて入ってきたライナ達に歩み寄る

「話は聞かせてもらったぞ、全力でお前を倒しに来た」

「はは、そうかそうか」

「笑い事じゃねぇって」

呆れるライナに事の首謀者であるシオンは楽しそうに笑った

「うん、でもせっかく来てくれたところ悪いんだけど…早くこれにサインした方がいいと思うよ」

と、尚もにやにやしながらシオンはライナに紙を差しだす

「ってこれ、顧問に提出する奴じゃん…」

「もうお前の名前だけかけばいい状態なんだ」

「まぁたお前は…って、あれ?フェリスの名前が書いてある?」

そう、紙をよく見るとフェリスの名前が書いてあるのである

しかもその紙は生徒会に加入しますという紙なのだ

でもフェリスはさっきまで追われていたのだ

シオンにぶーぶー文句を言っていて…

けど今は竹刀をライナに向けているのだ

「ま、まさか、おま…お前…」

「すまない、ライナ…経費でだんご代が落ちると聞いて…」

「生徒から集めた金をだんごに!?」

色々と突っ込まずにはいられないライナであった

「そういうわけだよ、ライナ」

「う…けど、どうせ雑用ばっかりなんだろ…」

「おや、よくわかるね?」

「何年悪友やってんだよ」

「あぁ、それもそうだ」

はは、とシオンは笑った

「じゃあ入ってくれるかな?」

「……」

「フェリスに殴られちゃうよ?」

「それは嫌だ…」

ライナはそう言って先程渡された紙に渋々名前を書き込んだ

まさか、こんな結果になろうとは思わなかったので半ばやけくそである

「フェリスは俺が呼ぶまでは仕事はないから、自由にしてていいよ
ただしライナはダメ、今日から仕事ね♪」

シオンに紙を渡せば、彼はそんなことを言って

ムカつくくらいの爽やかな笑顔で横を通り過ぎていった

きっと、顧問であるミラーに見せに行ったのだろうが

「なぁ俺の扱い酷くない?」

「連続幼女誘拐犯だからな、それくらいの労働は義務だぞ」

「そういうお前は何で呼ばれるまで仕事がないんだよ」

「どうやら…兄様が何かやったらしいのだ」

「シスコン兄か…」

フェリスがいう兄様とは彼女の兄であり剣道部の幽霊部長のルシルのこと

話によれば彼は裏で暗躍しているらしかった

シスコンって度をすぎるとすげぇなぁ、とライナは改めて思ったのであった

因みに道路に放置されたゾーラ達は当然単位をもえかった

それどころか、後日呼び出され、活動を手伝わされたらしい

ライナは言わずもながら、毎日シオンの下で書類の整理に追われたのであった

そしてやっぱりフェリスには最初に約束しただんご三箱を買わされるはめになり、財布の中身が消えたらしい

「もう嫌だ…」

彼の苦労は今日も続くのであった




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