ドン、と街角で誰かとぶつかった

思わずよろけて尻餅をついてしまう

「ご、ごめんなさい!大丈夫?」

相手は小柄な女性であった

彼女は心配そうに自分の顔を覗き込み、手を差し伸べる

「大丈夫だ」

その綺麗な顔立ちに甘い香り

ドキドキしながらも差し出された手を取り、立ち上がった

「大変、血が出てるよ?これ使って」

見れば擦り剥いたのか、じわりと腕に血が滲んでいた

女性は自分のハンカチを取出し、腕に巻き付けた

「これで平気かな?じゃ、私遅刻しちゃうから行かなきゃ!」

彼女は腕時計を見ると、慌てて走りだした

「お、おい!お前の名前は?」

「キファ…キファ・ノールズ!」

赤毛に赤目、小手毬学園高等部二年、キファ・ノールズは走りながら振り返ってそう言った

どんどんお互いの姿が遠ざかり、やがて見えなくなる

桃色がかった茶髪に眼帯、がっしりとした身体つきの青年

辛夷学園の番長こと、レファル・エディアはふぅ…と息を吐き言った

「惚れた…」

彼は今日、恋に落ちたのであった





ぺらりと彼の前に置かれた書類があった

「どうしたんだ?これ」

「今朝学園に届いたんですよ」

「キファ宛じゃないか…差出人は…」

それは書類というよりは手紙に近いようだ

彼はそれに目を通す

本人が読まないうちに開けてしまうのも、どうかとは思うが、彼はあまり気にしていないようだった

「なるほど、これは楽しそうだな」

彼は一瞬にやりとして、机から紙を取り出した

「よし…フィオル、これ…向こうに送り返してくれ」

そしてペンでそれに何か書くと、今年度から新しく生徒会の役員になった、フィオル・フォークルに渡した

「いいんですか?こんなことして」

「いいんだよ、面白くなりそうじゃないか」

そう言って、銀髪金目の生徒会長、シオン・アスタールは楽しそうに笑った

「いいのかなぁ…」

フィオルは渡された紙を見ながら小さく呟いた

何だか触れてはいけないような話題な気がしたので、とりあえずこれ以上は何も言わないでおくが

ただ被害を被るであろう人達の顔を想像して、頭が少し痛くなった

「ん〜…じゃあ返事として出しておきますよ」

「あぁ、くれぐれもよろしくな…
レファル・エディアに」

事が起こる数日前の出来事だった





「ライナ・リュートぉぉ!!」

黒髪黒目、昼寝大好きな長身の男、ライナ・リュートが教室でだらけていると

外から叫び声が聞こえた

「…何か今俺の名前呼ばれてなかった?」

「はっきり聞こえたよ」

ライナは前の席に座っているキファに尋ねた

キファも確かに誰かが外でライナの名前を叫んでいるのが聞こえたので、肯定する

「キファぁぁ!」

「あれ?私?」

「お前も呼ばれてるのか…」

しばらく二人は様子を見ていたが、今度はキファを呼ぶ声が聞こえる

ライナは渋々椅子から立ち上がり、窓から校庭を見下ろした

すると、下には桃色掛かった茶色の髪をした男が一人、たたずんでいる

片目には眼帯をし、がっしりとした身体つきだ

「誰?」

ライナはそう言った

どうやら下にいる男は、この小手毬学園の生徒ではないようだった

制服がまず違うし、見たことのない顔だ

ライナが首を傾げていると、横からひょいとキファが顔を出した

「あっ!」

そして驚いたように口を押さえる

「知り合い?」

「ん〜…まぁちょっとだけね」

聞けばこの間道でぶつかったらしい

ただそれだけなのだが

「何の用かしら?」

キファは不思議に思いながらも下に降りることにした

「一体どうしたの?」

校庭に降りてキファは男にそう言った

事の成り行きを見ていた者も数名、キファと一緒に下にやってきた

彼はそれを一望するとこう言う

「俺は辛夷学園三年のレファル・エディアだ
キファ、この間はありがとう、俺と結婚してくれ」

いきなりの発言にキファは一瞬たじろぐ

「な、なんで…そんな…」

「俺はお前に惚れたんだ」

「う…」

レファルはそんなキファの元へずかずかとやってきて、彼女の手を取る

キファは思わず顔を赤くするが、慌てて頭を横にふった

「気持ちは嬉しいけど…私には好きな人が…」

「知ってるさ、手紙にそう書いてあったもんな」

「て…手紙?」

そんなもの読んだだろうか

「お前はライナ・リュートって奴が好きなんだろ?同じ学年の、ライナが好きなんだろ?
だから俺はライナ・リュートに決闘を申し込む!」

「え〜〜〜!?」

「はぁぁぁぁ!?」

レファルがそう言うと、キファは驚いたように口を開いた

同時に後ろにいたライナと声が重なった

「お前がライナ・リュートか」

レファルは後ろにいたライナへと視線を移した

冷たいものが胸へと突き刺さる

「そうだけど、決闘?無理無理…いや、本当無理よ?」

ライナはふるふると頭をふった

面倒ごとはなるべく避けたかった

しかし、キファはそんなライナの態度を見て

「ライナ!?ちゃんと守ってよ!」

なんて言って腕に抱きつくものだから、彼は一瞬考えて…

「や…だけど、俺ってそんな柄じゃ…」

「いいから、私のために一肌脱いで!」

私の、というところを強調しながら、キファはライナの背中を押した

ライナは困ったように後ろを振り向いたが、一緒についてきてくれていたフェリスとシオンは

「むぐもごも…」

「面白そうだからいいんじゃない?」

なんて言って、助けてくれる感じではなかった

特に、フェリスはいつもよりも無表情で、ライナの方すら向いていなかった

「決まりだな!」

「もう嫌だ…」

レファルがライナの肩を叩くと、彼は何でいつも自分だけこんな目に…というように、がっくりとその肩を落としたのであった

「レファル・エディア、辛夷学園三年、番長だそうだ」

「番長…それって…」

「うん、多分強いんじゃないかな」

シオンはライナとレファルの決闘が決まると、指をパチンと鳴らした

するとどこからやってきたのか生徒会の面々が会場作りなんかを始める

ライナはやる気のないようなその目で、それをじっと見つめた

「種目は…いや、決闘だし、何でもアリな!」

「うわ、ちょ…いきなり!?」

レファルは開始の合図が鳴る前にライナの元へと詰め寄った

彼の手には木刀が握られている

「じゃ、始め〜♪」

ライナが必死にそれを避けていると、シオンは楽しそうにコールした

「危な…当たったら痛いよな、あれ……っていうか俺何で戦ってんの?嫌なのに……あれ?」

「ひょいひょいと避けやがって…このグロウヴィルの錆になれ!」

レファルの剣劇は続く、ライナはぶつぶつ言いながらもかわしまくる

「っていうか、何?お前木刀に名前つけてんの?グロウ…?まぁいいけど、ちょっと痛いんじゃね?」

「なっ…これには色々と事情があるんだ、よっ!」

「おっと単調になってるぞ?」

ライナはそんなつもりはなかったのだが、どうやらレファルを煽ることになったようだ

恥ずかしそうにしながらも彼は手を休めないが、一瞬隙ができた

「そういうわけだから、何でもありなんだっけ?じゃ…軽くやるだけな
求めるは雷鳴>>>・稲光」

ライナが空中に何かを描くと、そこから雷が放たれる

校則などでは禁止されているが、今は決闘

ライナは両親が魔法研究者なので、割とどんな魔法でも使える

今回は簡単に使える雷の魔法「稲光」を放つ

だいぶ威力は弱めたが、隙をつくことはできるはずだ

「うわっ魔法かよ!」

思惑通り、レファルはそれを避けようとして、彼の構えの中に、ライナが飛び込めるような隙間ができる

ライナは思い切り踏み込んで、拳をレファルの脇腹へとヒットさせた

「ぐはっ…!?」

「ふぁ…危ねぇ…」

レファルはライナが丸腰だったので、油断していたのかそれをもろに食らった

ライナは倒れてくる彼の身体を、受けとめた

「はい、そこまで!」

と、その時シオンの声が響いた

どうやら決闘という名の喧嘩は終わりを告げたようであった

「いやぁ、さすが番長…強いね」

シオンはそのままつかつかと前にやってきてそう言った

「実は、君の実力が知りたくてさ、中々他校と触れ合う機会なんてないし、これをきっかけにと思ってね」

「ど、どういうこと?」

すらすらと言葉を並べるシオンにライナは不思議そうに首を傾げる

「俺達、小手毬学園生徒会は、最近他校との交流会なんかを考えててね
それで先日辛夷学園から手紙がきたじゃないか、まぁ俺宛じゃなくてキファ宛だったんだけど」

それで、と

「こちらとしては、辛夷学園の番長がどのような人物か知りたかったんだ、前々から噂は流れていたけれど、自分の愛で見たくてね
だから、勝手で悪いんだけど……仕組んじゃった♪」

えへ☆とシオンは笑った

「つ、つまり俺達は」

「シオンと言う名の悪魔腹黒生徒会長の手のひらの上だったってこと…なのか?」

「ごめんね、何かのきっかけになればと思ったんだ」

レファルとライナはその場に茫然と立ち尽くした

呆れて言葉もでてこなかった

「あいつ…小手毬の裏番長なんだな」

「そうなんだよ、あいつ酷いだろ?」

そして何か通じあった二人であった

「今回のことは、俺が辛夷の生徒会に話を通しておくよ
ここで会えたのも何かの縁だ」

「助かるよ」

レファルとシオンはその後、がっしりと握手をした

そしてレファルはキファの方を向いて

「あきらめないからな」

なんて言ってウインクした

「一途なんだなぁレファルは」

「惚れた女は守りたいからな」

シオンは楽しそうに笑った

キファはレファルの一言に顔を真っ赤にして

「わ、私は………もうっ勝手にして!」

何か言い掛けたが、ぷいっと顔をそらした

「レファル、頑張れ、いけるかもしれないぞ」

シオンはにやにやしながらそう言った

「あぁ……ライナ・リュートになんて負けないさ、決着はいずれ」

「まだ戦うのかよ!?俺はやだよ!」

「恋のライバルだ!」

「うへぇめんどくせぇ」

ライナはまためんどくさそうなことが増えたと、困った顔に手をあてた

「それじゃあまたくるぜ」

レファルはそんなライナを見て笑うと、そう言い残して去って行った

「うむ、今日のだんごもうまかったな」

レファルが去った後、フェリスは無性に原が立ったので、食べおわった串をライナに刺してみたりしたのだった

「痛ぁぁぁぁ!?」

今日も小手毬学園は賑やかだった




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