しとしとと雨が降り続く中、それはやってきた

「転校生を紹介するわ」

小手毬学園、高等部二年の教室にざわめきが起こった

担任のジェルメ・クレイスロールは静かに、と手でそれを制した

「とりあえず自己紹介してくれる?」

ジェルメがそう言うと、隣に立っていた小柄な少年が一歩進み出て笑顔で一礼し

「ヴォイス・フェーレルといいます
何と僕、飛び給してきちゃいまして、姉より一つ学年が上になっちゃいました
好きなものは小さな女の子です!」

そう言った

クラスが氷のように固まったが、彼はそんなこと気にせずに続けて喋る

「学園長にもかけあいまして、あ…勿論先生にも許可はもらいました
僕は風紀委員ということになりましたので、よろしくお願いしますね」

「いや、小さい子が好きとか言いながら風紀委員とかダメだろうが!?」

ヴォイスがにこやかに自己紹介を終えると同時くらいに、ライナはそれに思わず突っ込んでしまった

ヴォイスはそれに一瞬驚いたが

「おやおやこれは中々いい突っ込みですね?でもどうせならもっと僕を罵倒してください…激しく!もっと!」

なんて言い出して駆け寄ってくるものだから

ライナは話し掛けるんじゃなかったと、酷く後悔した

「いやー、ライナさん!よろしくお願いします」

「あ、あぁ、うん…よろしく?」

ヴォイスはジェルメに頼み、ライナの隣の席へとやってきた

最初に話し掛けたせいなのかよくわからないが、かなりキラキラとした目でみつめられているように感じる

一応、ダメ元でライナは周りに助けを求めてみたが

「すまん」

「ごめんね…」

「だんごは上手いな」

と軽く目を反らされた

「じゃあライナ、新人君に校内を案内してあげてよ」

ジェルメは悪乗りしたのか、にやにやしながらそんなことを言い出す始末である

ライナとしては正直たまったものではない

自分は朝から猛烈に眠いのだ

学校で寝倒すつもりでやってきたのだ

それなのに

「断ったら、課題とか積み重ねちゃう♪」

「わぁ、嬉しいです、ライナさん、ぜひ僕を色々と案内して下さい!」

自分の意見は無視で、どんどん話は進んでいって

「あぁぁぁぁ!もうわかったよ!」

ライナは半ばやけくそに返事をした

キファやシオンはそれを心配そうに見つめていた

フェリスは相変わらずだんごに夢中なのであった

放課後、ライナはヴォイスと共に校舎を歩いていた

「ここが実験とかする部屋ね、科学室ってやつ?あと向こうが料理する部屋で」

「ライナさん」

「あっちが技巧室、その向かいがビデオとか見る部屋ね」

「ライナさんってば」

「さらに角を曲がると職員室が……って何よ?」

ライナが淡々と説明していると、ヴォイスが横から口を挟んでくる

あまりにもしつこいので、話を聞けば彼はこんなことを言うのだ

「幼小部へ行きませんか」

しかも彼の周りにはポップな花が飛んでいるように見えたりして

「小さな女の子達が僕を待っているような気がするんです!」

「俺も変な目で見られるじゃん」

ライナは呆れたようにそう言う

するとヴォイスは

「あれ?ライナさんは飛びきりの変態だと聞いたのですが?」

「はあぁ?誰に……って、もう聞かなくてもわかるけどさ…」

なんてことを言いだしたので、ライナはがっくりと肩を落とした

原因はきっとフェリスだろうと、そう思った

あながち間違ってはいないだろう

何せ自分の妹に似たようなことを吹き込んでいたのだから

それで自分が何度酷い目にあったのかなんて考えたくもなかった

「大体、幼小部っていったらあれだぞ?フェリスの妹とかその友達がわんさかいるんだぞ?
行ったが最後、遊び倒されて魂が抜けたみたいになるんだぞ?」

「本望ですとも」

「えぇぇ…」

「あ、中学部とかでもいいですよ?僕のストライクゾーンは広く高いのです」

発言はそんなに凄くないのだが、ヴォイスは偉そうに胸をそらした

ライナは呆れすぎてかける言葉が見つからない

と、そこへ

「あ、ライナ発見!」

亜麻色の髪を後ろでくくった、幼い顔立ちの少女、ミルク・カラードが現れる

彼女はライナよりも一つ下の学年で、今年高等部へとやってきたのだ

「おっミルクじゃん、高校生活はどうよ?」

「何か前に会った時も同じ事言ってなかった?」

「そうだっけ」

「そうだよ〜!
私ね、毎日そっちに会いに行ってもいいんだよ?でもルークが…」

にこにこと話し掛けてくるミルク、何だかんだ言っても毎日顔をあわせているような気がする

「ルーク?三年の?」

「うん、ルークがね、ライナにはあまり会っちゃいけないって言うんだぁ」

ミルクは両手の人差し指をもじもじとさせながらそう言った

「あ〜…保父さんね…」

ライナはルークの顔を思い浮かべた

白髪の髪を後ろでくくる青年、ルーク・スタッカートは小手毬学園高等部の三年生だ

どうやら生徒会に所属のようだが、詳細は定かではない

彼は周りからは保父さんだの保護者だのと言われる

なぜなら今目の前にいる少女、ミルクへ彼の愛情が全て注ぎ込まれているのだ

大変過保護で、ミルクの周りには男性を近付けさせないようにしているとか

「苦労してんなぁ」

「そんなことないよっ、ルーク優しいんだよ?」

「勿論です隊長」

「あっルークだぁ!」

噂をすればなんとやら、ルークがひょいとミルクの後ろから顔を覗かせた

ミルクは嬉しそうに彼に話し掛ける

「隊長、彼は今、お取り込み中のようですから、また今度ゆっくり話をしては?」

「えーでもせっかく会えたのに…」

「ケーキがありますよ、部室に行きませんか?」

「ケーキ!?行く!」

ミルクとルークはどうやら同じ部活のようだ

ルークの巧みな話運びにより、ミルクは彼と一緒に部室に行くことにしたようで

「またねライナ!」

そう手を大きくふりながら廊下の奥へと消えていった

「しかしライナさん…今の彼女…」

「んあ?」

「なんて可憐なんでしょう…」

ヴォイスはミルクが去った後、彼女について延々と語りだした

どうやら彼のツボにはまったようだ

確かに幼い顔立ちのミルクだが、これでもちゃんと高校生…

「はぁ…何だかなぁ…」

ライナはため息をついた

もう今日は朝から疲れた、帰って寝たい気分であった

「しかしライナさんはもてますねぇ」

「何でそうなるわけ?」

「おや、気が付いていないのですか?」

ヴォイスは首を傾げた

「いや、まぁ…ほら、何ていうの?」

「ライナさんは女性を泣かす天才ですねぇ」

困ったものです、とヴォイスは言った

「では粗方案内してもらいましたし、僕も用事ありますしもう大丈夫ですよ」

そのまま続けて彼はそう言った

ライナとしてはかなり嬉しい展開

「あ、そう?じゃあ俺帰って寝ても…」

「いいですよ」

確かめてもヴォイスはにこやかに返事をするだけで、ライナを束縛したりはしないようだ

ライナはとっとと帰ろうと、ヴォイスに手を振って下校することにしたのであった

ライナが去った後にヴォイスはふと思い出したように言った

「あ…そういえばライナさんのカバンの中に、僕が女子更衣室から盗みだしたものを一式入れておいてあげたことを、言ってなかったなぁ」

うーんと彼は少し考える

しかし、ライナはきっと喜んでくれるだろうと、そうヴォイスは思って

「まぁ大丈夫でしょう」

そう言って彼は自分の仕事をしに行ってしまった

因みに丁度その頃ライナはカバンを開けて

「なんじゃこりゃあぁぁ!?」

と叫んでいた

自販機で何か買おうかと財布を取り出そうとすると、代わりに男性の自分が持っていたらやばいものが山ほどでてきたのだ

「ヴォイス…あ、あいつか!」

そう言えば自分がミルクと話している間に一瞬消えたかもしれない

そうか、その時だ

「今から見つけてしばいて…」

と、ライナが再び動きだそうと顔を上げると

「ライナ…貴様、いつの間にか大事なものを失っていたのだな」

目の前には自分を冷たく見つめるフェリスの顔

「あ、あ〜…えぇと…これ、俺がやったんじゃなくて」

「人に責任を押しつけるのか?」

「違うって本当に…」

どうやらフェリスは勘違いしているようだ

ライナは必死に訴えたが、通じていないようだった

そして彼女は背中の竹刀を引き抜き

「問答無用だ!」

そう言ってライナを叩いた

「うぎゃあぁぁぁ!!」

その瞬間、今日一番の悲鳴が校内へと響き渡ったのであった…




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