ガラリ、とドアを開く

黒髪黒目の長身の男、ライナ・リュートは今日からここ、小手鞠学園の二年生だ

小手鞠学園には幼小部〜高等部まで入っている

彼はそこの高等部に在席していた

「おはよ…」

彼が眠たそうに目を擦りながら教室へ入れば、見知った顔が揃って振り向いた

「おはよ、ライナ」

真っ先に声をかけてきたのは、赤色の髪を肩まで伸ばした少女、キファ・ノールズ

いつも明るく、周りに気を配る彼女は、クラスや学校でも人気者だ

彼女は笑ってライナに手を振った

「ふむ、今日もだんごは上手いな」

「フェリス…それ、挨拶じゃないぞ?」

対して、挨拶そっちのけでだんごを口に含んでいるのは、彼の家の真向いに住んでいるフェリス・エリス

長く煌めく金色の髪に、青い瞳、滑らかな白い肌

絶世の美女というにもふさわしそうな彼女は、大のだんご好きである

しかし、その美しい顔には感情というものが見受けられない

彼女は家が道場で、小さな頃からスパルタ教育を受けたため、表情が乏しいのだ

だが、最近はライナや友人達と触れ合い、感情も取り戻しつつあるようであった

そのままフェリスの隣に視線を移せば、ライナの親友…もとい悪友であるシオン・アスタールの姿が見える

彼は今年から生徒会長に当選し、さらに成績は毎回トップクラス

後ろで三つ網にまとめられた銀色の髪と、金色に輝く瞳が、彼のエリートぶりに拍車をかけていた

「まだ先生は来てないよ、ギリギリセーフだったな」

「あぁ…ゆっくり歩きすぎた…ってか眠すぎた」

ライナはそう言いながら席に着いた

すると丁度その時始業のベルが鳴り、担任のジェルメ・クレイスロールが入ってくる

「起立!」

一年の時にクラス委員長であった、トアレ・ネルフィの号令と共にガタガタと皆、机から立ち上がる

「礼!」

『おはようございます!』

朝の挨拶と一緒に一礼する

ジェルメはそれを見つめて

「おはよう」

そう返した

全員が席に着くのを確認すると彼女は話し始める

「まずは、進級おめでとうかしら
私が一年の時に引き続き担任するわ、よろしくね」

では出席を…と、ジェルメは名簿を読み上げていく

ライナはキョロキョロと周りを見渡したが、やっぱりというか、クラスメイトの顔触れは、全く変わっていないようだった

「とりあえず委員長を決めてくれない?
というかトアレが引き続きでいいと思うんだけど」

ジェルメは黒板にチョークで『委員長:トアレ・ネルフィ』と記載した

「ぼ、僕ですか?」

トアレはきょとんとして、自分を指差した

「僕よりシオンさんの方が向いてるんじゃないかな」

「いや、俺は生徒会が忙しいし…トアレが適任だと思うよ」

トアレは自信なさげであったが、シオンがそう言うと、困ったように笑った

「私もトアレがいいと思うな?」

キファもシオンに続けて賛同する

するとトアレはみるみる顔が輝いて

「キファさんがそう言うなら…」

と、照れ臭そうにそう言った

「あんたわかりやすいわねぇ、じゃ委員長は決まりね」

にっこりと笑った後、ジェルメは

「後は特にないわ
まぁ、他に委員とかあるけど…そのうち皆で決めちゃって」

紙はここに貼っておくし、と

「後は解散♪」

そう言って早々に立ち去っていった

「なぁ…俺らのクラス…これでいいのか?」

「ふむ…まぁよいのではないか?」

「そうかなぁ…」

担任の背中を見送りながら、ライナは新学期最初から少し不安になったのだった





「ライナ、少し練習に付き合ってくれないか?」

ライナが荷物をまとめて帰ろうとすると、フェリスが肩に竹刀を背負いながらそう言った

彼女は剣道部で次期部長候補である

現在はフェリスの兄、ルシル・エリスが主将を務めていた

しかしこの兄、極度のシスコンである

しかも剣の腕は一流で、黒い噂が絶えなかったりする

「俺、帰宅部だし…帰ろうかと思っ……いや、ごめんなさいやっぱり行きます」

ライナは何だか嫌な予感がしたので断ろうとしたが、それよりも先にフェリスの竹刀が喉元へと突き付けられた

本気で叩かれては自分の命が危ないので、結局一緒に行くことにする

因みに、彼女の太刀筋も鋭く、常人ではとらえられないほど

ライナは辛うじて見える程度であった

「お前の兄が道場で練習してるんじゃねぇの?」

「兄様は幽霊部員だぞ?」

「部長なのに!?」

そんな会話をしながら歩きだす

ルシルはフェリスの話によれば、部長なのに部活には顔は出さないのだそうだ

ライナはそういえば、部長は道場に住んでいる、とか幽霊である、とか、話が飛びかっていたのを聞いたことあるかもしれないと思った

「でも、家にはちゃんといるんだろ?」

「勿論だ、皆気が付いていないだけで気配を完全に消せるのだ」

「そりゃあ、あんな噂が流れるわけだよ…」

「だが兄様だぞ?」

「うん、まぁそうだけど」

そうこうしながらも、道場へ着く

フェリスは少し着替えてくる、と奥へ消えた

しん…と静まり返る中、ライナは一人取り残される

「しかしルシル・エリスが幽霊部員ねぇ」

ライナはそんなことを言いながら壁に寄り掛かる

けれどそれをする前に、背中に何かが突き付けられた

「僕を呼んだかな?」

後ろから声が聞こえた

「部長のお出ましかよ」

フェリスが言っていたとおり、全く気配が読み取れなかった

ルシルは若干刺のある声で

「妹に何かしたのかな?」

そんなことを言う

「してないって…見てたんだったらわかるだろ?」

ライナは降参、と両手をあげながらそう返した

「なら、いいんだけど
僕の可愛い妹に何かしたら………許さないからね、そのつもりで」

ルシルがそれだけ一気に言うと、ふっと彼の気配が消えた

どうやら、また幽霊、と噂される状態に戻ったようだった

直後、道着に身を包んだフェリスが現れた

「ライナ、顔色が悪いぞ?」

「気にしないで…」

フェリスは素振りをしながらライナにそう言った

心配してくれているようだった

しかし、兄に脅された等とは口が裂けても言えない

ライナはぶんぶんと首を横に振っておいた

するとそんな二人の元へ、ひょっこりと顔を出した者がいた

彼らの友人

「おっシオンじゃん」

「生徒会があるのではなかったか?」

「さっき終わったよ、だから俺も一緒にここで話そうかなって」

すとん、とシオンはライナの隣へ腰掛けた

「ねぇ、ライナ」

「却下」

「何も言ってないじゃーん」

「じゃあ何よ?」

「生徒会に入らない?」

「………」

シオンがにこやかにそう言うと、ライナは露骨に嫌そうな顔をした

「もうメンバー決まってるじゃん」

「フィオルにクラウ、フロワードにルーク、それにカルネ」

「顧問は三年の担任と同じく、ラッヘル・ミラーなんだろ?」

無理無理、とライナは床に寝そべった

「とにかく、考えておいてよ」

「えー」

「フェリスも入らない?」

「断る」

素振りを続ける中でフェリスもきっぱりと否定した

シオンはそれを受けて

「まぁいいけど…絶対引き入れてやる」

なんて言った

「ったく、めんどくせぇなぁ」

「ははっまぁ今回は諦めるよ」

「今回って…次回もあるわけ?」

「誘うのはやめないさ」

しつこそうだなぁ、とライナは思った

実際、シオンは腹の奥底で色々作戦を練っていたりする

だが、フェリスとライナはそんなこと知るよしもなかった

「よし、今日のノルマは終わりだ」

「三人で帰ろうか」

「たまにはいいかもな」

二人はフェリスが着替えてくるのを待った

今度はルシルはやってこなかった

揃って道場をでれば、もう日は沈みかけ真っ赤な景色が広がる

「今まではわりと別々に帰ってたから、三人なんて久々だな」

「ライナ、シオン、この間おいしいだんごの店を見つけたのだ」

「おっいいね、寄って帰ろうぜ」

夕飯前だけど、それも悪くないか、とライナはフェリスに着いていく

「下校中に寄り道なんていけないんだー!」

「お前も同罪だっての」

シオンはくすくす笑いながらそう言ったが、彼も一緒に歩いてくるので、いつものように突っ込んでおいた

春は新しいスタートの季節

ライナはこの一年が、去年と一緒に楽しい日々でありますように、と

心の中で思った

三人でたべただんごは、とても甘くておいしかった




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