「話にきたって…」

「そのままの意味だよ」

そっと手をとられる

彼の手はとても冷たく、まるで氷のよう

「本当は他の場所でゆっくり話したいんだけど、ここで話すよ」

Nは後ろにいる男に目配せをする

するとその男、ゲーチスは頷いてその場から去っていった

「さあ、この場にはボク達だけだよ
通行人は自分達のことに必死だ…ボク達の話なんて聞いていないだろうから」

「何の話を、するの…?」

「簡単だよ、君にとってポケモンとは何だろう?」



いつかの駅のホームで自分や、ノボリとクダリに聞いた台詞を彼は再び口にする

「君はポケモンをどう見ている?
道具…いや、そんなことはないよの、だって観覧車から落ちたとき、君のポケモンが言っていたよ
君は優しいんだって、小さくって力はないけど、とても強いんだって」

「私が…?」

「そう、すごく優しくてそれが強さなんだってさ
ねぇプラナス…ボクは聞いたんだ、君のこと好きかって…そしたら大好きだって言うんだよ
君のトモダチは、君のこと好きだって言うんだ…これは、一体、どういうことだろう?」

Nは不思議そうに首を傾げる

「ボクはずっとポケモンと一緒に過ごしてきたよ
皆傷ついてて、苦しいって言うんだ…人間が怖いって言うんだ…
なのに、何で君のポケモンは、君が好きだって、一緒にいたいって言うんだろう
トウヤやトウコのポケモンも……同じことを言うんだ…」

「二人の…ポケモンも…」

「だからボクはとても君達に興味がある…知りたいと思う
だけど、なぜだろう…君達はボクの手を擦り抜ける……これじゃあ数式は解けないんだ…」

「数式って?」

「世界を変えるための数式だよ…だけどまだ未来は見えない、世界は未確定だ…」

そして淋しそうに目を伏せて

「何でそんなに淋しそうな顔をするの…?」

「ボクが淋しそう…?そうかな…」

どうしてだろう、とNは呟いて

「ボクはね、君のトモダチと話したいんだ
さっきも言ったけど、ボクは君に興味があるから…君のトモダチの話もちょっとだけ聞きたいんだ」

「私の…」

プラナスはそっとボールに手を伸ばす

そして、どうしようかなと少し迷ってから、いつものようにボールにキスをする

ボールからでてきた彼女のポケモンは、状況がよく飲み込めないのかキョロキョロと辺りを見回している

「ありがとう…プラナス」

Nはそのポケモンの頭を撫でて、プラナスに礼を言った

「ボクの名前はN
安心して、ボクは君に何もしないよ…見たことのない顔だね、名前はなんて言うんだい?」

『……?』

「そうか、キノガッサというんだね
ボクはちょっと君にプラナスの話を聞きたいんだ…彼女がどんなトレーナーなのか教えてくれるかい?」

『………、……?』

「……なるほど、プラナスはカントー地方という土地のトキワシティで育ったのか…でも生まれた場所はわからない…拾われた?そうか…
父親と弟と三人暮らし…母親は父親にメガトンパンチをして出ていった?しかも顔面だって…痛いじゃないか…
ポケモン図鑑は持っているけど、どちらかといえば親にあまり迷惑をかけたくなくて家を飛び出したのか…へぇ、それで今はイッシュに?
それにしても、このキノガッサ…とても君を信じているね……?この間の君のトモダチと同じように大好きだって言っている…」

「きのたんが…」

『……♪』

きのたんはプラナスに擦り寄る

プラナスはきゅっときのたんを抱き寄せた

「もし…全て人とポケモンが君達のように向き合うなら、人に利用されるだけのポケモンを解き放たずに、ポケモンたちと、人の行く末を見守ることができるのかもしれないね……」

「ねぇ、その解き放つって、何なの…?」

「おや?ゲーチスの話を聞いていなかったのかい?
そのままの意味だよ…ポケモンを人間の手から逃がすのさ」

「逃がすって…そんな、そんなの……」

「多くの価値観が交じり合い世界は灰色になっていく……ボクにはそれが許せない
ボクには夢がある…ポケモンと人間を区分し、白黒はっきりわけること…
そうしてこそ、ポケモンは完全な存在になれると思うんだ
ねぇプラナス…君にも夢はあるかい?」

「夢………?そんなの、今聞かれても、わからないよ…」

「そうか……できれば聞きたかったけれど、残念だ」

Nは本当に残念だというように目を閉じた

「プラナス…ボクはこれからポケモンリーグに向かう…そして、チャンピオンを越えて夢を叶える…その前に、君に会いに来たんだ」

「何で…私に…?」

「何でだろう…ボクもそれが知りたいよ…
と……もうこれ以上は話していられないようだし、ボクはそろそろ行くよ」

「……」

「君の大切な人が、やってきたからね」

後ろから聞き慣れた声が聞こえた

「それじゃあ、ボクは行かなくちゃ」

くるりと背中を向けて、彼は歩きだす

「N……やめることは…できないの…?」

「そうだね、ちょっと無理かな…だから…ボクを止めにおいで」

その背中は、彼の身長に対して、少しだけ小さく見えた

「全力でおいで、ボクは君を待ってる
あと、そうだ…プラナス?最後に大事なこと、教えてあげるよ」

Nは背中を向けたまま、立ち止まる

「大事なこと?」

「そう、大事なこと
ボクの本当の名前……それは…」

そして彼の口が語ったものは…

ひゅう、と二人の間を風が駆け抜けた




前をんで
いつかの回想






[戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -