「プラナス様」

「はい」

「デートいたしましょう!」

部屋の戸がいきなり開いて、誰かが駆け込んできた

プラナスはその人物を何も言わずじっと見上げる

「…………」

「お待ちください、何でしょうか…その沈黙は」

ノボリは少し残念そうに頭を下げる

「いや、だって首にカメラとか……」

「ああ、こちらですか?こちらはプラナス様の可愛らしい姿を一瞬でも逃さないように…」

「はあ……」

プラナスが黙っていたのは、彼が持っていたカメラに原因があったようだ

プラナスは彼の首に下がっているそれに手をかける

「置いていってください」

「しかし」

「置いていって、ください?」

そしてそのまま、プラナスはにこりと笑ってカメラを掴む手に力をこめた

するとミシリと何かがきしむ音がして、ノボリはあわててカメラをテーブルの上に置く

「それでいいです、行きましょう」

デート自体は拒否はしないらしい

プラナスはノボリの手を掴んで歩きだした

「今日お休みなんですか?」

「ええ、プラナス様がお休みだというので、午後から半休を頂いたのです」

「なるほど…で、クダリさんは…」

「今頃机上で頭を抱えているのではないかと」

「脱走しそうですね…」

「ご心配なく、全てすませたらヒウンアイスと約束済みです」

さぼられては困りますから、とノボリは言った

「さすがです…それで、どこに行きますか?」

「観覧車は…まだ修理中でございましたね…」

「ノボリさんが壊したんですけどね」

「あれは不可抗力でございます!プラナス様がわたくし以外の方と乗車されたのが悪いのですよ…?
それに、あれはプラズマ団が動きを止めたそうではないですか」

「ああ…そんな話もありましたね…」

Nに引っ張られて乗ったあの日、停電があった

おかげで観覧車に閉じ込められるわ、観覧車から飛び降りるはめになるわで散々だった思い出がある

「あれ、そういえばあの時何かぼやいていたような…」

「と、いいますと?」

「ううん…はっきりとは思い出しませんね…頼んでないとかなんとか…」

「頼んでいない…?何をでしょう…プラナス様と一緒に観覧車を楽しんでおきながら、文句など…」

ぶつぶつと何か呟きながら歩くノボリ、はたから見れば怪しいことこの上ない

「それより、わたくしプラナス様に渡したいものが…」

「私に…?」

「はい、勤務中に髪をあげてみてはいかがと、髪飾りを」

そんなノボリはプラナスの手を取り、小さな包みをその上に置いた

「わたくしの制服の袖の模様をそのまま採用してみました…オーダーメイドですよ」

プラナスはそっとそれを受け取り、中身を取り出した

髪飾りは本当にノボリの袖の模様と同じように、グレーの下地に黒と茶が縞になって塗られている

「わたくしとクダリの制服は線路がモチーフですから、この髪飾りも同じように線路がモチーフ…プラナス様はどこまでも走って行けるでしょう」

「どこまでも……ノボリさんも…?」

「プラナス様がよろしければ、ご一緒させてくださいまし」

きゅ、と手を握られる

プラナスはこくりと頷いて手を握り返した

「ありがとうございます、プラナス様」

「…ノボリさん」

「はい」

「私…最初、成り行きでノボリさんと結婚しちゃって実はすごく不安で…この先どうなるのかなとか思って
でも、今はそんなことないです…私…ノボリさんと会えてよかったって思います」

「わたくしも、プラナス様とお会いできたこと、とても嬉しく思います」

「あの…これからも、よろしくお願いします」

「勿論でございます」

ノボリはそのままプラナスを抱き寄せ、強く抱き締めた

「の、ノボリさん…ここ、街中…っ…」

「おっと、失礼いたしました…続きは帰ってからにいたしましょうか?」

「つ、続き!?続きなんてないです!ないですよ!」

「プラナス様、わたくし準備はいつでもできております」

ばたばたと腕の中で暴れるプラナスの頭をそっと撫でる

「ううう…子供扱い…!私小さくないよ…」

「ええ、わかっております…プラナス様は十分大人ですよ
さあ行きましょう、この先に美味しいケーキ屋さんがあるのです」

「ケーキ…!」

プラナスは頭を撫でられると、ぷくりと頬を膨らませたが、ケーキという単語により一瞬で機嫌は直ったようだ

ノボリはそんなころころと表情が変わるプラナスを愛しそうに見つめながら、手を引いて歩きだした

「て、手は…あの」

「ご不満ですか?」

「んと、えと……ええと…」

「ああ…わかりました」

ノボリは何か思いついたようにぱっと手を離した

プラナスは自分の幼い容姿と低い身長を気にしている

だから、背の高いノボリと手を繋いでいると保護者と子供のように周りから見られてしまう

そんな風景をプラナスは気にしているようで

「嬉しいんですけど、あの…ごめんなさい」

「いいのですよ、さあ今度こそ向かいましょう」

二人でゆっくりと歩きだした

見たことがない店を沢山通り過ぎていく

いつか三人で日用品を買いに街に出たときとは違った、新たな発見もある

「あれ、あんなところにパン屋さん…あそこの洋服屋さんも可愛い…」

キョロキョロと辺りを見渡しながら、どんどん奥に進んでいく

しばらく進むと、ショーケースに並ぶ美味しそうなケーキが目に飛び込んできた

薫る甘い匂い

「ケーキ屋さんだ…ノボリさんの言ってた…………あれ?」

早速ここがそうなのかと、本人に確認しようかと後ろを向いた

しかしそこに本人の姿はなく、がやがやと通行人の声が響くばかり

「………まさか、私、迷子?」

そんなばかな、と頭を抱えたが自分はケーキ屋の前にいる

「はっ……これは…ノボリさん迷子フラグ…?…待ってたら来るかな…」

プラナスは一瞬探しに行こうかとも考えたが、すれ違いになるのはさらに混乱を招くと思い、踏み留まった

立って待っているのも疲れるので、座る場所でも探そうかと近くのベンチに座ろうとする

だがそこで聞き覚えのある単語が耳に入った

「…プラズマ団の……」

思わず聞こえた方を振り替えると、近くで男性が熱っぽく何かを語っている

辺りにはちらほらと人が集まり、通り過ぎる人々は止まってみたり振り返ってみたりと反応は様々だ

喋っている男性はとても特徴的で、ぴんと跳ねた緑の髪に変なマントを羽織っている

「ワタクシの名前はゲーチス…プラズマ団のゲーチスです
今日皆様にお話したいことは、ポケモン解放についてです」

「ポケモン解放…」

前々から気になっていた話題のようだ

プラナスもこっそりと人込みに紛れ、ゲーチスという男の演説に耳を傾ける

「我々人間は、ポケモンと共に暮らしてきました
お互いを求めあい、必要としあうトレーナー…そう思っておられる方が多いでしょう
ですが本当にそうなのでしょうか?我々人間がそう思い込んでいるだけ…そんな風に考えたことはありませんか?」

ゲーチスは身振り手振りを交えながら、次々と言葉を発していく

「トレーナーはポケモンに好き勝手命令している…仕事のパートナーとしてもこき使っている
そんなことないと、誰がはっきり言い切れるのでしょうか?」

カツカツと彼が動くたびに靴の音が響いた

「いいですか皆さん、ポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです!我々が学ぶべきところを数多く持つ存在なのです!
そんなポケモン達に対し、ワタクシ達人間がすべきことは何でしょうか?」

そして、彼が喋るたびに辺りからざわめきが起こる

プラナスの横でも、動揺したり、頭を抱えたりと人々がゲーチスの演説に反応していた

「…そう、ポケモンを解放することです!!そうしてこそ人間とポケモンは初めて対等になれるのです!
皆様、ポケモンと正しく付き合うためにどうすべきかよく考えてください…
というところでワタクシ、ゲーチスの話を終わらせて頂きます、ご静聴感謝いたします」

そして、そんなどよめきの中、ゲーチスは演説を終える

聞いていた人達は徐々に散っていき、一瞬動くのを躊躇ってしまったプラナスだけがその場に残ってしまった

ゲーチスはちらりとプラナスを見て、口を開く

「貴女は、どう思いますか?」

「私、は……」

言いたいことはあるのに、うまくでてこなかった

前に話題にあがったときから考えていたこともあったというのに

なぜか足も動かない

「ふふ、随分と動揺していますね…?こんなに人通りが激しいのに、まるで貴女一人きりのように見えますよ?」

「そんなこと…」

思わず、声が震える

なぜだろう、目の前にいる男からは危険な香りがした

ゲーチスはふっと口角を釣り上げる

「ワタクシは貴女の顔を見れて、よかったと思っていますよ」

「私の………?貴方は、私を知っているんですか…?」

「それはもう…王から話も聞いています
それに、先程のワタクシの話は…その王の意見でもあるのですよ」

「王様…?」

「そうです、我々プラズマ団の王は争いなく世界を帰ることを夢見ている」

「世界を変えるって…」

「それは…直接彼から聞くといいでしよう」

ゲーチスはそっとプラナスの後ろを指差した

ゆっくり振り向くと、そこには緑の髪をした青年

相変わらず目は死んでいたが、目があうとにこりと微笑まれた

「まさか…」

「そう、そのまさか
ボクが王だ…君と話をしに来たよプラナス」

そして、Nはゆっくりとプラナスに手を差し伸べた




から始まる▲▽生活_08
ところでノボリさんは?





プラナスは レベルが9に UPした! ▼
「愛力」が4あがった! ▼
「知力」が3あがった! ▼
「魅力」が5あがった! ▼
◎現在のプラナスのステータス
・愛力26(+4)
・知力18(+3)
・魅力18(+5)
・運気−5
・やる気7
・逃げ足−3



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