気が付いたらショウウィンドウの前にいた
じっと見つめるそれは純白のドレス
ケーキ屋を目指す途中で見つけた
思わず立ち止まって魅入ってしまう
「プラナス様が着たらどうなるでしょうか…」
彼女とは夫婦関係である
色々な過程をすっ飛ばして結婚した
したといえば最初に成り行きでしたキスだけである
結婚も実はプラナスが冗談で言った一言から始まり、偽りのものであった
しかし、今はそうではない
自分はいつの間にか彼女に引かれていた
気が付けば目で追っている、そんな毎日
プラナスも最近はノボリに気を許してくれるのか、少しくらいのお触りならば嫌がらない
「いつか、きちんと式も挙げたいですね…」
そんなことを言いながら、ノボリはドレスが入っているガラスへ触れた
「そちらに飾ってある、身体のラインが目立つスレンダーラインやマーメイドラインよりは…プリンセスラインやAラインの方が彼女には似合うのではないですか?」
と、そんなところへ誰かがやってきた
ガラスに映り込む姿は、まさしく自分とプラナスが知り合い、そして結婚するきっかけを作った人物だ
「ツルバグ様…」
「久しぶり…でもありませんね、こんなところでドレスなんか眺めて…式でも挙げるのですか?」
「いつかはわかりませんが…
しかし、わたくし、プラナス様のボディラインを堪能したいのですが…」
「相変わらずマニアックですね…」
ノボリの隣へやってきたツルバグはふう、と呆れたように息を吐いた
「しかし、ドレスはいつも白なのです…これではクダリの色…黒はないのでしょうか…」
そんな横でノボリはぶつぶつと文句を言っている
「おや、昔は黒いウェディングドレスがベースだったのですよ?」
「な、なんと…それは本当でございますか?」
「ええ、昔一部の地域では黒いドレスに白いブーケだったのです
それがいつの間にか花嫁の純潔の象徴として、白に統一されるようになったのですよ…稀に桃や水色もありますが、限りなく淡い色を使うのです」
「……詳しいのですね」
「色々やっていましたから」
にこりと笑ってツルバグは答えた
「しかし、肝心の彼女はどうしたのですか?ご一緒に見にきたのでは?」
「プラナス様ですか?ええ、今一緒にケーキ屋を目指して……ケーキ……あ…」
しまった、というようにノボリは口を押さえた
ドレスに夢中になりすぎてプラナスを見失ってしまったのである
「こ、これは…わたくし迷子…?い、いえ違いますね…プラナス様が迷子なのです…!」
慌ててかけだすノボリを背に、ツルバグは小さく手を振り
「幸せそうですね」
そう言ってふっと微笑んだ
Aから始まる▲▽
生活.S10
迷子の迷子のノボリさん
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