「あの方達にはわたくしとプラナス様が結婚などしていないことは、わかっていたのかもしれません」

カチャリとテーブルにカップを置いて、ノボリはそう言った

現在、彼の家、リビング

あの後、立ち話もなんだからと移動することになったのだ

プラナスは最初、ここへ行くのを躊躇ったのだが、考えてみれば自分の今の状態では、帰る場所も泊まる場所も確保できない

だから遠慮しながらもこうしてここにいたりするのだ

「わたくし達は曲がりなりにも、結婚いたしました
これで当面は、向こうは煩く言わないと思いますが…お金のことについては、もしかしたら何か言われるかもしれませんね」

「そうですよ、あの時何で私を助けてくれたんですか?おまけに結婚なんて…ノボリさんはそれでいいんですか?」

「業務も終わり、帰ろうとすれば、貴女様が淋しそうにホームの隅にいらっしゃいました
おまけに何か困っている…そんな貴女様を横目に、放っておくということができますでしょうか?」

わたくしには無理でした、とノボリはカップに視線を落とす

「そして結果、わたくし達は結婚することになりました」

そう、クダリが紙を持って走っていった時点で、もう後戻りは出来ないのだ

プラナスも目の前に置かれたカップに口をつける

ほんのりとレモンの味がした

「わたくしがプラナス様をお守りします
今はまだできることは少ないですが、ゆっくり…前に進みましょう」

「すみません、本当にすみません…特に私の親がすみません…」

「そう気に病まないでくださいまし?わたくしはこれでよかったと思っております」

「…私もやれることがあればやっていきたいです
だから、よければノボリさん達のところで働かせてくれますか?」

「プラナス様がそうおっしゃるのであれば…」

ノボリはそう言って、顔をあげる

そして玄関のある方を向いた

「どうしたんですか?」

「いえ、足音がしたので帰ってきたのではな…」

「ただいま!」

「やはり」

彼が最後まで言い終わらないうちに、ドアが勢いよく開く音がする

直後、ドタバタと走る音

「クダリ、お帰りなさいまし」

「ただいまノボリ!プラナスただいま!」

リビングに飛び込んできたのは、先ほどノボリから受け取った紙を出しにいった双子の片割れ

二人は双子というように、服の色と口の形以外は本当にそっくりである

「ここにはわたくしとクダリが住んでおります、男ばかりですが、どうぞくつろいでくださいまし」

「二人より三人の方が楽しそう!」

そして言うことは各々違っても仕種はそっくりで、プラナスはちょっと顔がほころぶ

知らない場所にやってきて、実はとても不安だった

お金のことも、両親のことも、それにこの先のことも

みんなみんな心配でたまらないけれど…でも、最初に出会ったのが彼らで良かったとプラナスは思う

「ねえ、そういえばそのカップ僕の
何でプラナスが使ってるの?」

「え?これですか?」

「そうそう、その手に持ってるやつ
それノボリと色違いなんだ」

いいでしょ!とクダリはプラナスの手をつついた

「カップが二つしかなかったのですよ、すみませんクダリ」

「ほとんどこの家の物は二つしかないもんね
まあお客さんもあまりこないからだけど」

クダリは立ち上がって冷蔵庫からサイコソーダを取出し、直接口付けた

「このままだと色々足りないものも多そうですね、明日買い物にでも行きますか?」

「賛成!」

そして二人の中では着々と話が進んでいく

ちょっと置いてきぼりが寂しいなんて言わない、言いません

「何から何まですみません…」

「気にしないでくださいまし
最近は仕事で忙しく、外出もろくにしておりませんでしたから」

「ちょっと仕事抜け出すのくらい大丈夫だよね?」

「何かあればすぐに連絡してもらうようにいたしましょう」

決まりですね、とノボリは立ち上がった

「さてお風呂を沸かしてまいります、プラナス様もよろしければお入りくださいまし」

「パジャマは…僕達のでよければ貸してあげる!予備があったはずだから!」

クダリは飲みかけのソーダをテーブルに置き、走っていってしまった

ノボリはそんな彼の背中を見送ってから、プラナスの方へ直る

そして

「もしプラナス様がよろしければ一緒に入りますか?」

なんて言ってプラナスにタオルを差し出した

プラナスは不意打ち発言とその衝撃により、口に含んでいた紅茶でむせる

「…だ、大丈夫でございますか?」

「だっ…大丈夫も何も、また急に何を言いだすんですか…!?」

「いえ、やはり仲を深めるためには、これくらいはしなければならないかと思いまして」

「なんか違うと思う…!」

プラナスに突っ込まれ、ノボリは申し訳なさそうな顔をする

彼なりに必死なのはわかるが、何だかちょっとずれている気もしなくもない

するとそこへ黒と白の縞模様のパジャマを持って、クダリが帰ってくる

「これしかなかったけど、三人お揃いだよ!」

バサリとプラナスの手の中にそれを落とし、クダリはうれしそうに笑った

「どっちか入らないなら僕が先に入る!」

そしてそのまま風呂場へと走っていく

「元気ですね…」

「いつものことでございます」

「そういえば、この辺り…ホウエンからは近いんですか?」

「ホウエン…ですか?」

ノボリは聞いたことない、という風に首を傾げた

「ここはイッシュ地方…ホウエンではございません」

「聞いたことも?カントーもジョウトもシンオウも?」

「ないですね…そこはプラナス様が暮らしていた場所なのでしょうか?」

彼は棚から本を一冊取り出して、テーブルの上に広げる

「イッシュの地図でございます」

「うわあ…全く見たことない場所」

プラナスは鮮やかに彩られた紙面を見てくらくらした

見たことない場所だらけである

「この近くにプラナス様が先程申し上げたような地方の名前は聞いたことがございません
きっと、わたくし達が住んでいるところとは離れているのかもしれませんね…」

ノボリはぱらぱらとページをめくったが、プラナスがいっている場所らしきところは見つからなかった

「前しか見ていなかったので、どこをどう経由してきたのかすら怪しいですが…なみのりやそらをとぶなんかの秘伝技はいっぱい使ったかも…?」

「なるほど、それならば、お互いが見たことのないポケモンを連れていたことも納得がいきます」

確かに、とプラナスも頷いた

その後、クダリが入っている浴槽の方でドアを閉める音がする

「あがったようですね」

ノボリはそちらに向き直り、自分の着替えを持つ

「プラナス様、一緒に…」

「入りません…」

「残念です」

そしてちょっと寂しそうにクダリと入れ替わる形で脱衣場へと行ってしまったのである

「何の話?」

「ああ、ここがどこかっていう」

「イッシュだよ!」

「さっきノボリさんから聞きました、凄く私の住んでいたところからは遠いみたいです」

そっか、と

「残念、僕プラナスの住んでるとこ行ってみたかった」

クダリはすねたように言って

ちょっとその仕草が可愛くて、思わずプラナスは笑ってしまって

「なんだよー!」

「何でもないです、ふふ」

それをクダリが怒ったけれど、顔は笑っていた

結局、二人でふざけあっている間にノボリも風呂から上がり、プラナスもありがとうとぺこぺこ頭を下げて最後に入らせてもらった

今は、三人で布団の上、所謂川の字状態

間に挟まれて何だかちょっと動きが取れない

プラナスは寝る前に自分のポケモン達が入ったボールにキスをしてから布団に入る、毎日の日課だ

すぐに隣からはすやすやと寝息が聞こえる

プラナスもいつもならすぐ寝てしまうのに、何故だか今日は眼がぱっちりと開いてしまっていた

さっきまではなんともなかったのに、今更になって不安がこみ上げてきて寝れないのだ

これからどうなるのだろうか

うまくやっていけるのだろうか

そんなことが頭の中でくるくる回って

ごろんと寝返りを打った

するとその先にはノボリがぱっちりと目を開いていて

「寝れませんか?」

と、心配そうに聞いてくる

「ちょっとだけ…」

プラナスは困ったように頷いた

「…では、手を繋いで寝ることにいたしませんか?」

するとノボリはそう言ってプラナスの方へ手を伸ばす

プラナスはそっとその手を握った

「おやすみなさいまし、プラナス様」

ノボリはちょっとだけ握る手に力を込めた

繋いだ手は暖かくて

さっきまで眠れなかったのが嘘のように、プラナスの意識は深く沈んでいった

今は、まだ偽りかもしれないけれど、きっといつかは




から始まる▲▽生活_01
(って、クダリさんの足が飛んできます!?)
(ああ、いつものことでございます)
(すーすー…)





プラナスは レベルが2に UPした! ▼
「愛力」が2あがった! ▼
「逃げ足」が2下がった! ▼
「知力」が4あがった! ▼
◎現在のプラナスのステータス
・愛力7(+2)
・知力6(+4)
・魅力8
・運気1
・やる気3
・逃げ足−1(−2)



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