どのくらい走ったのだろう

いつの間にか知らない場所へとやってきていた

どうやら駅みたいだが、どうやってここへやってきたのかわからない

それだけ必死だったということなのだろうか

目の前で電車が止まる

いっそのこと乗り込んでしまおうかと思ったが、自分はお金を持っていなかったことを思い出した

清掃員や駅員がバタバタと走り回っているのを見ると、どうもこれが終電のようだ

「これからどうしたらいいんだろ…」

電車を眺めながらため息をついた

彼女の名前はプラナス

ずっと休まずここまで走ってきた

彼女は、ついこの間まではてんで普通の少女であった

ポケモンを連れて旅をして、各地で友達を作って

だが、久々に家に帰ってみようかと地元に戻ったことが、彼女の人生の分かれ目だったのかもしれない

なぜなら、帰った先には家がなかったのだ

自分の家があった場所には空き地が広がるばかり

思わず茫然と立ち尽くしたが、そんな感傷に浸るのも一瞬のこと

「君の両親は逃げたよ、君は僕たちに売られたのさ」

後ろから声がしたのだ

ゆっくり振り向くと、全身黒いスーツに包まれている男が立っている

「信じられないって顔してるね
無理もないさ…君の両親はカジノで大負けしてね、借金ができっちゃったから」

「だから、私を…」

「そう、君を」

好きにしていいってさ、と男は笑った

状況を理解するまでにそう時間はかからなかった

持っていた財布を投げ付け、プラナスは次の瞬間には走り出す

信じられない、そんなことはない

でも、もし本当だったら…

そう思いながら走って走って、そして今

暗いホームの片隅で、たたずんでいた

「すみません、今日はもうおしまいでございます」

そんな中、いきなり声をかけられびくんと身体がはねた

最初に家にいた男かと思ったが、どうも違うらしい

駅員だろうか、心配そうにプラナスを見つめていた

全身黒尽くめの、コートと帽子がとても似合う青年であった

「どうかなさいましたか?」

「いえ、何でもないんです、すみま…」

プラナスはにこりと笑って流そうとする

しかし、その言葉は最後まで続かない

自分を心配してくれている青年の後ろに、見覚えのある顔があった

もう一人、同じような人を引き連れて、にやにやと笑っている

「お客様?」

プラナスが困ったように目を泳がせると、青年は不思議そうに首を傾げ後ろを振り返った

「ああ」

そして何か納得したように頷く

「失礼ですがお客様、お名前を教えて頂いても」

「プラナス、ですけど…」

「そうですか、ではプラナス様?今からわたくしの話にあわせてくださいまし」

青年はそう言うと、プラナスを背中で隠すようにして、男の前に歩み出た

「お客様、今日はもうおしまいでございます」

「…そりゃあ残念だ
じゃあその子をこっちに渡して欲しい」

「それはなりません」

「なぜ?君達は赤の他人だろう?」

プラナスは目の前で起こっている事に、目をぱちくりする

どうやら青年は自分を守ってくれているようだが、なぜこんなことをしてくれるのだろう

ごちゃごちゃと考えていると、青年はゆっくりと口を開き

「赤の他人ではございません」

そう言ってプラナスの腕をぐいっと引っ張った

急にそんなことをされては、すぐには対応できない

プラナスはされるがままに、彼の胸の中へと吸い込まれた

ふわりと目の前に広がる青年の匂い

「赤の他人ではございません…わたくし達は、夫婦でございます」

「…は?」

プラナスは、抱きしめられた胸の中で、そんな間抜けな声しか出せなかった

「え、あの夫婦って」

どう反応したものかと思い、顔をあげれば青年とぱちりと目が合った

「プラナス様、今は何も言わず…わたくしにお任せくださいまし」

そうにこりと微笑まれ、プラナスはますますどうしていいかわからなかくなる

青年はそんなプラナスの頭を撫で、再び前へ向き直る

「お分かり頂けましたか?」

「頂けるも何も」

「だから無理ですと先に言いました」

男達は顔を見合わせる

「では貴方が彼女の肩代わりを?」

「そうなります」

「…本当に夫婦なんですか?」

「勿論でございます」

青年はきっぱりと言い切った

男はちょっと考え、そして

「では、証拠を見せてください
そうですね、キスでもしますか?夫婦ならこれくらい朝飯前でしょう」

そう意地悪そうに笑った

青年はプラナスをゆっくりと見下ろす

二人は身長差があるので、自然とこうなるのだ

「プラナス様?」

「…まさか」

「そのまさかでございます」

「いやいやいやいや!?」

プラナスは首をぶんぶんふった

しかしそれも空しく、くいっと顎を指で上げられる

そして

「わたくしの初めては貴女様です」

「…ちょ、たんまたんまた……んん…っ…!?」

一瞬二人の唇が重なる

何だか甘ったるい味がして、まさか本当にしてしまったのかとプラナスは慌てて口を押さえた

演技とはいえ、これは自分の初めてなのだ

「ふふ、よくわかりました」

男はその光景を見ながらぱちぱちと拍手し、そして懐から何かを取り出す

「でも、余興は終わりにしましょう」

それはモンスターボールで、中から何かが飛び出した

男の隣に控えていた部下らしき人物もボールを投げる

相手側には二匹のポケモンが立ちふさがった

見れば青年もいつの間にかボールを取り出している

カチリとボタンが鳴る音がした

「プラナス様、貴女もポケモンをお持ちですか?」

「一応…は」

「ではダブルバトルと行きましょう」

青年はそっとプラナスの身体から手を離した

プラナスは慌てて腰に手を回し、自分のベルトにボールがあるか確認する

皆、今まで自分と旅をしてきた大切なポケモン達だ

プラナスが用意できたのを見届けると、青年は男を指差し一言

「それでは改めまして、ご挨拶を!
わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します!プラナス様とわたくしの愛の力…とくとご覧下さいまし!」

そう言って彼はボールをぽんと投げた

「シャンデラ!」

ノボリのボールからは、プラナスが今まで見たことがないポケモンが飛び出した

炎がゆらめき、怪しいながらもとてもゴージャスな外見である

「さあプラナス様も」

ノボリはいつでも戦闘状態に入れるようにしつつも、プラナスの肩をぽんと叩く

プラナスはそれを合図にボールに口付け、投げた

中からはキノガッサが飛び出す

「相手はラグラージにカメックス、本当に水ばかりです」

「プラナス様達は、この辺りでは見かけないポケモンをお持ちなのですね?」

「私はノボリさんのポケモン見たことないですよ」

「そうでございましたか」

「…ここがとこかとかは後で聞かせてください、今は」

プラナスはそう言いながら目の前のポケモン達を見つめる

「キノたん、キノコのほうし!」

そしていつものように指示を出せば、キノたんは軽いフットワークで辺りに胞子を振りまいた

「ずっとキノたんのターン!タネばくだん!」

眠ってしまえばこちらのもの、キノたんはプラナスの指示に従い技を繰り出す

草タイプは水タイプとは相性がいい

すぐに相手は倒れてしまう

「ふん、こんなもの!僕のもっふもふにかかれば!」

男は二体目のポケモンをくりだした

もこもこした外見が可愛らしい、エルフーンという草ポケモンだ

「プラナス様には指一本触れさせませんよ!オーバーヒート!」

しかし、ノボリはそう言いながらプラナスの前に進み出る

直後、シャンデラの身体が赤く煌めき、辺りを焼き尽くす

男達はそれを避けるように後退し、出していたポケモンをしまった

「…いいでしょう…せいぜいあがいてください」

男はそう言って部下と共に走っていった

「…事情はよくわかりました」

ノボリは彼らがいなくなってからゆっくりとそう言った

「私何も言っていないんですけど…」

「いいのです、これも何かの縁…わたくしがプラナス様を」

ノボリはプラナスの前に手を差し出した

「それに先程は大変失礼を致しました」

「あ……」

プラナスは、バトルのせいですっかり忘れていたことを思い出し、一気に顔が赤くなった

「わ、私、そんな、あの…」

「プラナス様、わたくしにどんとお任せくださいまし」

「でも…またあいつらが…迷惑かけちゃう…」

「そんなこと、気にしないでくださいまし」

「ほ、本当に…?でも私住むところもお金も、ないし…」

「わたくしが、守りますから」

「だったら…だったら、結婚して私を守ってくれる…?」

プラナスは一瞬、自分が何を言っているのかわからないほど、気分が高まっていた

しかし最後の台詞ではっと我に返る

「結婚ですか…」

一方、ノボリはプラナスの心境を察しているのかいないのか、顎に手を当てぶつぶつと何かを言っている

「あ、の……結婚なんて、その…冗談ですからね?」

プラナスはそんな彼を見て、慌てて訂正する

本気で言ったわけではないのだ

しかし、ノボリは

「わかりました、わたくしと結婚しましょう」

そう言って印鑑を取り出したのである

「へ?あの、だから結婚っていうのは」

「結婚…わたくしにそんな器があるでしょうか
しかし、先程あの方たちに夫婦と言ったのも事実…
嘘だとわかればまた彼らはやってくる…キスまでしてついたことを無意にするわけにはいきません」

「だから…」

「男に二言はありません
プラナス様、わたくしと結婚してくださいまし?」

困ったように手をばたばたしているプラナスをよそに、手でくるくると器用に印鑑を回しながら、ノボリは首を傾げた

「クダリ、いるのでしょう?」

「いるよー!」

いつの間にやってきたのか、彼と色違いの服を着た青年がさっと紙を差し出す

「後はプラナス様が記入するだけでございます」

さらさらと紙に何かを書いて、ノボリはそれを差し出した

そしてクダリがそれを受け取り、顔を輝かせながらプラナスに聞く

「もたもたしないで早く早く!どこからきたの?」

「あの」

「名前はプラナス…と」

「話を」

「じゃあここに印鑑押してー」

「はいは…って何なんです!?」

完璧に彼らのペースである

そして、あれやこれやという間に自分は書いてもいないのに一枚の紙が完成する

というかどこから入手してきたのだろうか

「プラナスの判子で準備オッケー!」

「ではクダリ、出してきて頂けますか?」

「わかった!目指すは役所!出発進行!」

元気よく返事をすると、クダリは脱兎のごとく走っていってしまった

「彼はクダリ、わたくしの双子の兄弟でございます」

「なるほど、だからそっく……じゃなくて何をだしに行ったんですか?」

「婚姻届です」

「誰と誰の?」

「わたくしとプラナス様の」

開いた口が塞がらなかった

なぜ、どうしてこうなったんだろう

最初に彼がついた嘘が本当になった

確かに自分は結婚できる年だけど、でも…

「結婚なんて!?」

叫んだ声はホームに悲しく溶けていった




から始まる▲▽生活_00
(いつでもわたくしの名前をお呼びくださいまし!)
(僕びっくり!よろしくね!)
(…ただのしかばねのようだ…)





プラナスは 「奥様」の称号を 手に入れた! ▼
プラナスは レベルが1に UPした! ▼
「魅力」が3あがった! ▼
「逃げ足」が4下がった! ▼
「運気」は変わらなかった! ▼
◎現在のプラナスのステータス
・愛力7
・知力6
・魅力5(+3)
・運気1
・やる気3
・逃げ足3(−4)



[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -