宛も無く走り続けてどれぐらいの時間が経っただろうか。とうに限界は越えてしまった。けれど立ち止まるという選択肢は私の中には存在しない。
息遣いが荒く、後ろを振り向く暇さえ与えられないこの状況。何でこんなにも必死になっているのかというと、私は今とある人物から逃げている最中だった。

―――


それは今から半日程前のこと。
たまたま繁華街を歩いていると「懐かしいってばよー!」って聞き慣れた声が聞こえてきたので上を見上げると、両手を広げて少しだけ大人びた雰囲気のナルトが立っていた。二年半ぶりに見るその姿に私は思わず駆け出した。好きな人が帰ってきたんだから、嬉しいに決まってる。


「ナルト!!」

「ん?…もしかして、名前か?」

「うん」

「久しぶりだな〜」

「そうね!お帰りなさい!」

「おう!」


ちょっと見ない内に格好良くなっちゃって。でも笑った顔は昔のまま。ナルトは懐かしい面子との久しぶりの再会にはしゃいでいた。きっと強くなって帰ってきたんだろうな。
感動の再会もこのくらいにして、と卑猥な本を閉じたカカシ先生はナルトとサクラを連れて演習場へ向かった。ナルトは足を一旦止めてこっちを振り返ると、あとで行くから、とだけ残してまた走っていった。


夜になって家の戸が叩かれた。きっとナルトだ。私は警戒もせずに扉を開いた。


「よっ!」

「ナルト───って全身ボロボロじゃない!?」

「カカシ先生とサバイバル演習してたんだってばよ」

「あ、そう。結果は?」

「勝ったに決まってんだろ!」

「そっか。おめでとう!まあ玄関で立ち話もアレだし中入りなよ」

「いや、いい。すぐ済むから」

「?」


ナルトは急に真面目な顔になって私の手首を片方だけ掴んだ。彼の碧い瞳に不思議そうな顔した私が映っている。急にどうしたんだろうか。ゴクリとどちらとも言えぬ喉の音がする。こんな彼の表情は記憶のどこを探しても見当たらなかった。


「ナル、」

「俺は名前が好きだ」

「……え?」

「強くなったら言おうって決めてたんだ。名前ってば昔より可愛くなってたから何か焦っちまった…」


ナルトが私を好き?…いやいやいや。待て。おかしい。昔から私の気持ちなんてこれっぽっちも気付く様子のなかったナルトが?あり得ない。きっとこれは夢に違いない。


「で、返事は?」

「…」

「ってオイ!どこ行くんだってばよ!」


答えを急かすナルトに対し、混乱する私が取った行動は逃亡。いきなりすぎて頭がついていかなかった。

そして冒頭に至る。

現在私は追っ手(ナルト)から逃げ切り木の上で息を潜めていた。もうナルトの気配を感じなくなったし、荒かった息も整った。場所を変えてもう暫く隠れようと木から降りた瞬間、


「──螺旋丸ッ!」

「っうわぁ!」


どこからともなく現れたナルトに螺旋丸を打ち込まれた。私はそれをギリギリのとこで交わしたが、突然のことに驚き腰が抜けてしまった。


「何で逃げんだってばよ!」

「アンタこそ何仲間に螺旋丸ぶちこんでんじゃボケェ!!」

「名前が逃げっからだろ!」

「んなの知るか!」

「帰るってばよ」


ナルトは螺旋丸を止めると立てない私を抱き上げた。そのまま木の枝から枝へと飛び移る。相当遠くまで来たらしい。里が遠くに見えた。


「…俺の一世一代の告白を無かったことにすんなよな」

「う…!ご、ごめん」

「何で逃げたんだ」

「だっ、だって、ナルトが好きとか言うから、」

「おう。好きだってばよ」

「○×△□※」


どもる私にナルトはゆでダコみてーだなって笑った。ていうか、冷静に考えて、両想いじゃんか。


「な、なると…」

「あー?」

「私もナルト好きだよ」


ズル、と足を滑らせたナルトはお尻から地面に落ちていった。私はナルトが庇ってくれたから痛みは全くない。大丈夫?と聞こうとしたら、ナルトは私のことを思い切り抱き締めた。


「ナルトっ、」

「…なんだー。俺たち両想いじゃねぇか。ビックリさせんなよ」

「私こそビックリして思わず逃げちゃった。ごめんなさい…」

「謝んなくていいって。俺ってば今すっげー嬉しいんだ」

「私も」

「名前に逃げられた時はどうしようかと思ったけど、こうやって掴まえられたし?もう放さねぇし逃してやんねーから」


更に腕の力が強くなって顔を胸に押し付けられる。ずっと好きだったんだ。逃げるわけがないのに。相変わらずバカなんだから。


つかまえた

私だって一生逃してなんてあげないんだから!

(110805)