嫌な予感程よく当たると言うけれど、まったくその通りだと思った。

その日の夜は明日の任務に遅刻しない為に早めに寝ようと、珍しく少しだけ早くベッドに潜り込んだ。いつも開かれたままのカーテンの隙間から満月が覗く日だったのを今でも覚えてる。気持ちとは裏腹に目が冴えて眠れずぼんやり外を眺めていたら、目の前を黒い何かが素早く横切り、俺は衝動的にそれを追いかけた。心臓がやけに音を立てている。一瞬見えた横顔に、嘘であって欲しいとただ願う。



「残念。見つかっちゃった」

イタズラが失敗したように笑う少女は、昼間いつものように「じゃあね」と笑って別れたはずの名前だった。三メートル程距離はあるものの見間違えるわけがない。
嘘じゃなかった。黒い髪と黒い瞳。その顔付きはかつて里の仲間として自分のよきライバルであった少年と似ている。しかし名前は笑っているにも関わらず眉を下げて悲しそうな表情で俺を見ていた。こんな時間に大荷物で里をうろつく姿は、数年前終末の谷で対峙したサスケを彷彿させる。

「こんな時間に何してんだ」
「うーん、特に何も」
「嘘つくな!」
「大声出さないで。近所迷惑。そんなことより何よその格好。寝起き?」
「はぐらかすなってばよ!」
「………」

にこにこ。にこにこ。
名前は笑うのを止めない。自分がいま何しようとしてんのか分かってんのかよ。額当てもしないで、どこ行こうってんだ。ギリリ、と奥歯を噛み締める。

「今更、って思うかも知れないけど、ずっと考えてたことなの」
「だからって良いのかよ?!そっちを選んじまったら何も残らねーんたぞ?!!」
「うん。だけど、もう決めたの」

一歩、名前が後ずさる。まだ笑ってる。でも泣いていた。一体彼女の何がそうさせてるのか。なんて、そんなの分かりきったことなのに。

「アイツには私しかいないから」
「けど!アイツは、──サスケは!!」
「ナルト、分かって欲しい。サスケは、私のたった一人の家族だから」

サスケが私の知らない所でどんな悪事を働こうとも、唯一の肉親を見捨てることは出来ないんだよ。名前はそう言う。俺はそんな彼女に何も言えなかった。言えるはずがない。

「大好きでした。さようなら」

背を向けた名前はやがて森の奥に姿を消した。次会う時は敵として、お互いに刃を向けるのだろうか。強く握った拳に爪が食い込んで血が流れた。いつか言おうと思っていた言葉は言えないまま、伸ばした手さえ、君には届かない。



すり抜けた温もりの行方

13'0702
最近甘いお話が書けない。すみません(土下座)
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