突然海が見たいと言った私にイタチは嫌な顔一つせずにアジトから一番近い海へと連れてきてくれた。
暁のこの衣を着ている限り誰かに襲われる危険性は無いのだが、外出する際はメンバーの一人と行動を共にしろとリーダーからキツく言われている。それは私が組織に必要な存在でありながら戦う力を持たない非戦闘員だからだ。


「いつもごめんね」


私を横抱きのまま移動をするイタチに謝罪の言葉を掛ければ、イタチは首を横に振った。彼は優しい。自由に身動きが出来ない私を同情してるとか哀れに思ってるとかそんなんじゃなくて。
まあ出身里が同じってだけで何かと心配してくれてはいるんだけど。
そんなイタチが私は大好き。

そう時間も掛からず海に着いた。衣と靴を脱いで海に足を浸ける。夜の水は思ったより冷たくて長い間入っていることは出来ずにすぐに出て、今はイタチと砂浜に座って海を眺める。


「海の魚はこんな冷たい水中で過ごしてるのね」
「魚からにすれば普通だろう」
「そうだよね。私なんてすぐに出ちゃったのに、魚は強いな」


イタチは、そうだな、と言ってまた海を見つめる。波の音に耳を傾け、二人の間には長い沈黙が続く。その沈黙は全然苦ではなくてむしろどこか心地よい。そんな安心感を与えてくれるのがイタチだ。


「帰りたくないな」


イタチが私を見てるのが分かった。何故、とは彼は聞かない。その理由を彼は知っているから。
私には触れるだけでチャクラを吸収し、また、与えることが出来る能力を持っていた。そこをリーダーに気に入られたから暁にいるのだけど。この力を戦争の為に利用しようとしてるのを知った時は恐ろしくなった。
私はただ静かに暮らしたいだけなのに。争いの無い、とまではいかないけど、平凡で幸せな人生を謳歌したかっただけ。


「暁を抜けることが出来たらどれだけ嬉しいだろう」
「…」
「けど、そうした所で何も知らなかった時のように暮らすことなんて私には出来ない」
「…そうだな」
「ね、イタチ。どうして私たち人間に生まれちゃったのかな」


このまま海の奥深くまで沈んでしまいたい。



海底の深海魚のように静かに暮らせたらいいのに
(111026)
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