物忘れが激しいのは小さな頃からだったから、その時も…いっだって、ああまた忘れたと特に気にも止めずにいた。やがて二日連続で同じ物を買うことが増え、したはずの約束も気が付けば忘れてしまい友達に迷惑を掛けるようにもなった。何かが違うと違和感を感じては、気のせいだと思い込む。その繰り返し。
そして、いつものスーパーからの帰り道。急に道が分からなくなった。知らない道に置き去りにされたような感覚に急いでナルトに連絡して迎えに来てもらった。無事に家に帰ってきた私は食材を冷蔵庫にしまう。「…醤油は昨日も買ってたってばよ」というナルトの呟きは私には聞こえない。



「綱手のばあちゃんに見てもらうってば」

「何を?」

「最近おまえ可笑しいだろ。だから」

「可笑しい?何を言ってるの?私普通よ」

ナルトの顔が悲し気に歪んだ。どうして?どうしてそんな顔をするの。分からない、分からない、なんで。


いちいちメモをしないと忘れてしまうことばかりになる。覚えていられることも少なくなったし、今まで憶えていたことも思い出せない。思い出すのも止めた。


「俺が分かるか?」

「わかるよ。あなたはうずまきナルト。私の好きな人、恋人」

私はアルツハイマーらしい。手の施しようがない病気。この病気のお陰で仲間の名前を、次に顔を忘れた。家中メモだらけになった。それでも唯一忘れないもの、ナルト。外に出る時は必ず一緒にいたし、家でも私が困ることがあればすぐに助けてくれる。

「わたし、ナルトだけは忘れたくないよ」

「大丈夫だ。絶対忘れたりしねぇ」

「うん。ありがとう、………………」

名前は、何だったっけ。今たしか呼んだ気がするけど、気のせいだったかな?絶対に忘れないって思ったのに、…何を忘れないって思ったんだっけ?思い出せない。いつもと一緒だ。考えるのは止めよう、どうせ思い出せないから。疲れるし。そうだ、そうしよう。


「あなた…誰?ここは、どこですか」

「…っ」

寝て目が覚めたら知らない所だった。隣には金髪の知らない男の子。綺麗な青い瞳が印象的なその子は、私の名前を呟いた。私が分かるのは自分だけ。あとは分からない。まるで生まれたてのようだと思ってしまった。

俺はうずまきナルトだってばよ、よろしく。そう言って笑って右手を差し出す男の子、ナルトくん。とりあえずよろしくとそれを握る。わからない、何もわからない。だけど私は知っている。


悲し気に歪む彼の表情を、私は知っているような気がした。


忘れたことさえ忘れたの?
110927
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -