幸せそうに笑うキミが好き。優しくて、強がりだけど泣き虫なキミが好き。だけど泣いているキミを見るのは嫌いだ。誰だってそうだろう。好きな人が泣いていたら苦しいと思うもんだ。たとえその涙が、俺ではない誰かを想って流れたものだったとしても。



「なんで男の人って簡単に浮気出来ちゃうの」


もうお馴染みとなった居酒屋で聞き覚えのある台詞を吐き出す名前は空になったジョッキをテーブルに置くと、焼き鳥を口に含んだ。また浮気されたの、なんて言えない俺は曖昧に笑って見せた。


「相当ご立腹みたいだな」
「そうよ。今回は本当の本当に怒ってるんだから。だって三回目よ?三回目!」
「まぁまぁ」
「それで浮気がバレて、彼何て言ったと思う?」
「……さぁ?」
「『もうしない。俺にはお前だけだよ。愛してる』…聞き飽きたわ…」


ぐすん。再び涙で滲む目を擦る彼女の頭を優しく撫でてやる。いつだったか俺にこうしてもらうと落ち着くと言われてから、いつの間にか癖になっていた。だけど俺が出来るのはここまで。テーブルが無ければ抱きしめてやれたのに、だけど、テーブルが有ってよかったと思う自分もいて。それ以上に名前に触れてしまえばきっと歯止めが利かなくなるから。


「なんで、あんな男と付き合ったんだろ…。浮気ばっかするのに」
「…それでも好きなんでしょ?彼氏のこと」
「…………うん」
「なら頑張りなよ」
「…うん」


名前は涙を拭っていつもみたく幸せそうに笑った。



「カカシ。毎度ごめんね」
「んー。悪いと思ってるなら、謝罪よりお礼の言葉が聞きたいかな、俺は」
「!あ、ありがとうっ」
「どーいたしまして」


居酒屋を出て名前の家までの道のりを歩く。別に瞬身でも良かったのだけれど、名前が歩きたいと言ったからそれに一緒にいるだけ。酒で蒸気した身体に当たる夜風が気持ち良い。名前も目を細めていた。


「カカシは明日任務?」
「そ。第七班でね」
「カカシせんせー!とか呼ばれてるの?」
「まーね」
「変なの。カカシが先生だなんて」
「それは名前にも言えることだよ」
「ちょっと!それどういう、………」
「?」


反論しようと声を上げたと思うと突然不自然に切れた名前の言葉。隣を見れば、名前はある一点を見つめたまま動かない。視線の先には一組の男女がキスをしてる最中だった。あいつが彼氏だってことは名前を見ればすぐに分かった。これで四回目だ。彼氏も懲りないとは思うけど、名前も懲りないなって思う。


「また、かぁ…」
「名前」
「昨日の今日で、もう浮気って…本当にバカ」
「名前」
「私は…もっとバカ…」
「…」


さっきようやく涙が止まって、やっと笑ってくれたと思ったのに、また戻ってしまった。涙が溢れてしまわないように頑張って堪えていたのに、二人が色街に消えていく姿に、それは簡単に零れた。


「──…カカ、シ」
「もう止めよう。あいつを想ってお前が泣くことなんてないんだ」


気付いたら抱きしめてた。俺よりも遥かに小さい震える体を。名前は俺の行動に驚き弱々しい力で胸を押す。敵うわけないって知ってるのに。


「カカシ、はなして」
「放さない。放したりなんかしたらまた泣くでしょ」
「な、泣かないよ」
「うそ。名前は強がりだけど泣き虫じゃない」


本当はあいつの為に泣くお前の姿を見ていたくなかっただけ。キミの泣き顔を見ると俺も苦しいんだ。キミが俺ではない人を想って泣いているから、余計に。



もういいじゃない
されにおいで



title / 誰そ彼
110908

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