「髪の毛さらさら」
「やめろ。触るな」
「どうやったらこんな綺麗になるの」
「触るなと言っている」
「ね、なんで?」

まったく自分の話を聞かない名前に、ネジは深い深いため息をついた。後ろを歩くこいつは結った髪をほどいてまでずっと触っている。何がそんなにいいのか、自分にはわかるわけもなくただ名前にいじられる。多少なら触られてもいいが、ずっとは困る。もう10分は触っている。その間に名前はいいなぁ、だの、ネジの髪が欲しい、などとうるさくて仕方ない。

「女のわたしより綺麗。ネジむかつく」
「だから触るな」
「いーじゃん減るもんじゃないんだからぁ!」

名前の荒げて叫ぶ声に足を止めるネジ。くるっと向きを変えた彼に大袈裟に肩を跳ねさせた名前。何を言われるのかとビクビクしている名前を見て再びため息をつくと、彼女の自分よりもかなり短い髪の毛に手を伸ばした。

「ひゃっ!な、何?!」
「俺は男だ。綺麗などと言われても嬉しくない」
「さ、触るな!」
「おまえも俺の髪を触っていただろう。お互い様だ」
「ネジのいじわる…」


少しだけ桃色に染まった頬に満足気に髪から手を離すネジを、精一杯睨み付ける。が、そんな潤んだ瞳では迫力も威力もない。ネジは、暴れたせいで乱れた名前の髪を彼女の耳にかけながら言った。


「俺は自分の髪を綺麗だと思ったことはない。だが名前の髪の毛は綺麗だといつも思っている」
「ネ、ネジ…」


さら、と掬った髪の束が手から滑り落ちた。


「気にするな。おまえらしくない」
「…ネジ」
「なんだ」
「髪の毛触ってもい?」
「…今だけだからな」
「うん!」


名前はネジの髪を掬っては落としてを繰り返す。その顔は楽しそうで、そして嬉しそうだ。ネジも先ほどのように怒ったりもしていなかった。名前は徐にネジに抱きつく。ネジも名前の髪に指を通し優しく梳いた。


「ありがとう」
「ああ」
「また髪の毛触らしてね。わたしはネジもネジの髪もだいすきなんだから!…むかつくけど」
「………はぁ」
「あと声も顔も、手も足もだいすき」
「もういい、やめろ」
「あはは、真っ赤だ」
「うるさい!」



頭の天辺から爪先まで

(ネジの全部がだぁーいすき!)(やめてくれ)(ネジは?)(…)(ねー!)(愛してるに決まっているだろう)(…!!)


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