数年ぶりに偶然街で会った名前は、俺が知るよりも幾分が大人っぽくて綺麗に笑うようになっていた。

「そっか。キバは今学校の先生なのね」

「おう。小学校で体育担当してんだ」

久しぶりの再会に話がしたいと申し出た名前に、二つ返事で近くの喫茶店にやってきた。俺はコーヒーを。名前はミルクティーを注文した。

「あれからもう七年も経つんだ。時が流れるのって本当に早いわ」

「何言ってんだよ。俺たちまだ25だぜ?」

それもそうね、とクスクス笑う名前は、高校時代に俺がずっと片想いをしていた相手。他の女子と比べて特に目立つ所はあまり無かったが、仲良くなってこそ分かる魅力にまんまと惹き付けられてしまったわけだ。

この再会で、忘れていたその熱が、再び熱くなるのを感じる。

「ねぇ、アスマ先生のこと覚えてる?」

「え…ああ、覚えてるぜ」

「二年くらい前かな?先生にお会いしたの。そしたら先生が女の人と歩いてて」

「まじかよ」

「まじまじ。その人と籍入れたんだって」

「あのアスマが?」

「そ。あのアスマ先生が」

スプーンでミルクティーをくるくると混ぜる名前は楽しそうに思い出話に華を咲かせる。高校の話なんてする人がいないから俺も懐かしい気持ちになって。慣れ親しんだ仲間の顔が浮かんだ。

「みんな元気かな」

「あー…どうだろうな」

「私全然会ってないの。こっちにも久しぶりに遊びに来たから」

「ま、元気なんじゃねーの?あいつらのことだし」

「そうね、キバが言うなら、きっと元気だね」

ミルクティーをひとくち口に運ぶ。相変わらず綺麗な手だな。その手がカップをソーサーに置くとカチャっと食器の擦れる音。そして、薬指に光る、それ。

「名前」

「ん?」

「おまえ…指輪、」

「…あ、うん」

「まさか」

「そうなの、私、来月結婚するの」

職場で知り合った人とね。そう言って名前は指輪を片方の指で優しく撫でた。…なんて顔してやがるんだ。それを見つめる名前の顔は少しピンクに染まり、優しい目をしていて。三年間もクラスが一緒だったけど、こんな表情は記憶のどこを探しても見当たらない。そしてこんな顔をさせてるのは俺ではなくて見知らぬ誰がだということ。

「まだ…25だぜ?俺たち」

「そうね。だけど、もう、25歳よ」

そこにいるのは俺の知っている名前じゃないような気がした。こんなに遠くに感じたことなんて一度もなかった。あの時も、さっきだって。

「キバ、彼女は?」

「いねーけど…」

「そう。でもキバならすぐにでもいい人見つかるよ」

「………だといいな」

これは今の関係を壊したくないから告白しなかった臆病な自分への、当然の報い。伝えることも出来なかった俺が、おまえの結婚に反対したら、おまえは何と思うだろう。

…何を言ってるんだ俺は。そんな資格、あるわけないのに。


それでも、いい人見つかるよ、なんて、きみには言って欲しくなかった。なんて、俺はわがままだろうか。

「…結婚、おめでとう」

ごめんな名前。どうやら俺はおまえの結婚を素直に喜ぶことは出来そうにない。



きみに言えなかった言葉は永遠に封印します

title / hmr
110825
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