夢の中だけでしか会えない名前という少女に俺は恋をした。名前は夢の中でいつも泣いていた。戦いをやめて欲しいと誰かのためにその両の眼からポタポタと涙を流すんだ。泣いて欲しくなんかなくて俺は必死で名前を慰めるんだけどよ、泣き止んだりしねーんだってばよ。なんつーか、あいつの涙を止めることは誰にも出来ないっていうか。


ずっと泣いてるだけの名前の名前を何で知ってるのかは俺にもわかんねー。ただ俺の頭に流れ込んできた名前の全てに俺は何だかよく分かんない感情が芽生えて、それが恋なんだってことぐらいしか理解出来なかった。名前を守ってやりたい。暗闇に光るその涙を止めるのが俺ならいいってずっと思ってる。

ほら名前は今日もまた、誰かのために泣いてる。悲痛な叫びが、響く。


「ナルトはどうして戦いをやめてくれないの?」

「忍は誰かを守るために戦うんだってばよ」

「守る、ため?」

「ああ!里のため、仲間のため、家族のため、好きな奴のために、その命をかけて戦うんだ」

「死んじゃダメなの」

「死んだりなんて出来ねーよ、守り続けんだからな」


そう言ってやれば考え込むように視線を逸らした。名前にはそれが理解出来るのかは、本人だけしか分からないけど、色んなことを考えてるようだった。


「…ナルト、ナルトは戦争を経験したことがある?」

「いや…、ねーけど」

「戦争では誰かを守るための戦いは出来ない。自分を守ることで精一杯。私もそうだった。自分と誰かを守ることなんて出来ないの」

「そうかもしんねーけど、俺はそういう時だって誰かを守ることを諦めたりはしねぇ!前に戦った奴が教えてくれたんだ!大切なものを守ろうとした時、人は本当に強くなれるって」

「…!!」


それから名前は俺を見て悲しそうに笑った。相変わらず流れる涙は頬を伝ってゆく。それを拭おうと手を伸ばせばフッと放れる身体。まただ、また触れられない。今日も涙を止めることは出来ない。そうして目が覚めれば夢を見たことさえ忘れてしまうんだ。

いつもならそこで途切れてしまう視界。だけど今日は鮮明で。


「ナルトは真っ直ぐだ」

「名前…?」

「あの時の私もナルトみたいに真っ直ぐだったらみんなを守れたのかな」


名前の眼にも涙は見えなくて俺は嫌な予感しかしない。これで最期になんてさせて堪るかよ…!


「おい、名前」

「ありがとうナルト。励ましてくれて、慰めてくれて。もう大丈夫だよ。これで、私もゆっくり…」

「名前ッ!」


きらきらと光りに包まれた名前が見せた笑顔を最後に、俺は深い深い暗闇へ堕ちていった。
そして二度とこの夢を見ることはなかった。



ウタカタの夢幻

目が覚めたナルトに夢の記憶は残っていなかった。けれどその日、誰かに誘われるように演習場へ向かったナルトは静かに慰霊碑を見つめていた。

そこに刻まれた、一人の女の名前を…──。


(110821)

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