私の好きな人は幼なじみ。幼なじみは風影様。風影様は国の為里の為皆の為に尽力しなければならない。風影様は里の忍の誰よりも忙しい。風影様は、風影様は、…………、
「……やめよう」
最近幼なじみに会えていない理由を相手が風影だから、なんて考えるのはよそう。 今の風影といえば砂漠の我愛羅である。我愛羅はここ最近とても良い表情をするようになったと、下忍から上忍にいたる全ての忍に慕われている。中でも女の子からの人気は相当なもので、一部では我愛羅に恋心を抱く子まで現れ始めているというではないか。最近の我愛羅を女の子たちが囲っているのはよく見る光景だ。今だってほら。私のいる位置から見える風影邸の屋上では、里を眺める我愛羅の周りに女の子がふたり。面白くない。幼なじみの私との時間は作りもしないのに見ず知らずの女の子たちとの時間は何分でも何時間でもあるんですね。それもそうか。変な意地張って彼から会いに来てくれるのを待っている私なんかよりああやって自分から会いに来てくれる子を相手にするのは当然のこと。
私にも、あの子たちみたいに我愛羅に会いに行ける勇気があればいいのに。
その時、
──バチン。 彼を見つめていた私の瞳と彼の青緑の瞳とが合わさった。私を見下ろすその目を見るのは本当に久しぶり。それでも見続けることなんて出来なくて数秒もしない内に目を逸らすとその場から離れた。
やって来た高い高い崖の上。ここは里全体が一望出来る私の一番のお気に入りの場所。上から見る里は、夕日に照らされて凄く綺麗。昔はよく我愛羅と一緒にここへ来たのを思い出す。あの頃の私には我愛羅が好きという感情は無かった。ただ一緒にいるのが楽しくて、その時もこれからも我愛羅さえいてくれればいいとばかり思ってて。なのに忍になった我愛羅は私から離れていった。たまに会ってもお互いにぎこちなく、決して私を見ようとはしなくなった我愛羅。だからさっき目が合ったのは本当に本当に嬉しかった。だけど同じくらい苦しくて、切なかった。
「我愛羅…」
視線をさっき我愛羅のいた方へ向ければもう屋上に我愛羅の姿は無かった。きっと仕事に戻ったんだろう。
風が吹き砂が舞う。砂が入らないように目を閉じて俯けば背後に人の気配。とても懐かしい、気配。まさか、そんなはずは…。でもここに来るのは、ここを私以外に知っているのはひとりしかいない。うそだ。あいつが仕事を放ってまでこんなとこ来るわけ、ないのに。
「やはりここにいたか」 「……我愛羅」
振り返れば後ろに立っていたのは紛れもなく我愛羅で。私は咄嗟に一歩下がる。すると我愛羅は眉間に皺を寄せた。
「何故後ずさる」 「え…な、何でだろう。わ、かんない」
本当に分からなかった。無意識に我愛羅から放れようと足が後ろに下がる。
声聴いたのも久しぶりだと思った。少しだけ低くなったような気もする。近くで見れば顔つきも違うし目付きだって昔とは大違い。そういった変化を感じてしまったのが妙に寂しかった。いや、私は今も寂しいんだ。だから彼が手の届く距離にいたってさっきより距離を感じてしまうの。
「我愛羅、が、何をしたいのかが…私には分からない」 「…」 「いつも一緒にいたのに、急に離れて、会わない日が何年も続いたのにこうしてわざわざ会いに来たりして、」 「名前、」 「我愛羅は何がしたいの…?」 「…!」
きゅ、と胸の前で拳を結んで目を見開く我愛羅を見つめた。我愛羅は少し目を伏せる。こんな顔した我愛羅は初めてだ。
「…俺を軽蔑したか」 「してないよ」 「なら嫌いになったか」 「なってない。なってないよ。嫌いになんて、なれないよ」
口から放たれる言葉が震える。その逆だよ、我愛羅。
私はいつもいつも何かに必死になって生きていく我愛羅を寧ろ尊敬していたし、風影になって今まで嫌悪していた繋がりを大事にしたいと思うようになった我愛羅をもっと好きになった。いつもその一部になれたらいいのにって思ってた。
「会いに来て欲しかった。他の誰でもない、我愛羅に」 「…」 「忙しいって分かってる。だけど、それでも会いたいの」 「名前…」 「女の子と一緒にいる我愛羅を見てると辛かった。悲しかった。凄く……寂しかった…」
私の目から零れた涙が渇いた地面を濡らすと同時に腕を引っ張られた私は気付いたら我愛羅の腕の中にいた。
「気付けなくてすまなかった」 「我愛羅、」 「俺は怖かった。いつか自分の手が名前を傷付けてしまいそうで」 「うん」 「精神が不安定だった頃の俺なら確実に…最悪殺していたかもしれない」 「…うん」 「それでもお前は弱くて小さくて優しくて、俺の過ちすら笑って許すだろう」 「うん。だって我愛羅は私より苦しんでいたから」
キツく抱きしめる我愛羅の腕が僅かだが震えている。
「私が我愛羅を支えてあげたかったの」
私が、優しさで包んであげたかったの。我愛羅は酷く泣きそうな顔でまた私を抱きしめた。
「名前は強いな」 「?」 「俺はやっとお前に伝えることが出来る」 「我愛羅?」
我愛羅は私を体から離すと、私の目をじっと見つめて、
「ずっと好きだった」
と、言った。今度は私が驚く番だった。優しく笑う我愛羅に私から抱きついて、今度こそ背中に腕を回した。
「私も、ずっと好きでした!」
遠回りな恋道
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