俺の時間はあの日止まったまま動かなくなってしまった。そして、お前がもうこの世にはいないという事実だけが胸をキツく締め付ける。慰霊碑に刻まれたお前の名前が、お前で無ければいいのにと何度思ったか。

なぁ、名前。俺には名前さえいてくれればそれだけで良かったのに。



今日もまた名前の墓を訪れてはしばらくそこから動くことは出来ないまま時間は過ぎてゆく。

思えば名前と俺の関係は脆くて曖昧なものだった。気持ちを伝えることは無くても、キスをして時には体を重ねていればそれだけで俺の中は満たされた。それは俺が名前を好きだったからで、彼女もそうであってくれているんだとずっと思ってた。


「愛してたのに、ごめんな…、名前」


早くに君の気持ちに気付いていれば、もしかしたら俺の隣には今も君がいたのかもしれない。最後に見た泣き顔が、頭に浮かんで放れてくれない。笑顔を思い出すことも出来ない。名前はどんな風に笑ったっけ。
好きだよと伝えると頬をピンクにして笑う名前を見たのは、いつが最後だったかな。思いだそうとしても酷く泣きそうな顔で「うそつき」と言う名前しか出てこない。


名前は自分が遊ばれている女の内の一人だと思っていた。確かに寄ってくる女と遊んでいた時期もあった。女もそれで喜んでいたから女遊びを止めようともしなかった。だけど名前と出会って全てが変わった。
例えるならモノクロだった世界に色がついたような、そんな感覚。名前は俺を本気にさせるような人だった。悲しい時には泣いて、憤った時には怒れる、俺にはないものを持っていた彼女だからこそ、俺はこんなにも惹かれたんだ。


「なぁ。どうやったらお前を本気で愛してるって伝わる?」


死ぬって分かってたなら何をしても伝えたのに。もう会えない君に、どうすれば想いが伝わるの?

行き場の無いこの想いはいったいどうしたらいい?




“───カカシ”


ふわっと吹いた風に乗せて耳に入ってきたのは、俺がずっと聞きたかったもの。聞き間違えるわけがない。名前の声だ。


「名前?名前なのか?!どこにいるんだ」


周りを見渡しても名前の姿はない。でも、確かに聞こえたんだ。君の優しい声が。


「ずっと言いたかったんだ!お前だけを愛してるって、嘘なんかじゃないって」

「泣かせてばかりでごめんな、悲しい思いばかりさせてごめんな」

「ちゃんと伝えてればこんなことにはならなかったよな」


ごめんな。

いもしない相手に、俺は何を言っているんだろう。柄にもなく必死になって。……違う。名前にはいつも必死だった。泣いてほしくなくて、どうすれば笑ってくれるのかいつもいつも考えてた。


「名前…」


ポツリと君の名前を呟く。途端に周りの空気が変わった。そして遠くに名前の姿が見えた。駆け出したいのに体が動かない。抱き締めたいのに、手を伸ばせなかった。
すると名前の口元がアイシテルと動いた。音にはならなかったけど確かに鼓膜に届いた。「俺も愛してるよ」そう呟けば、名前は俺が忘れてしまっていたあの笑顔を見せてくれた。それで、もう彼女の姿は見えなくなった。




俺たち二人は何もかも間違いだらけだったのかもしれない。今は悔やんでももう名前は帰っては来ないし、あの時間が戻ってくるわけでもない。さっき見えた姿が虚像だったとしても名前にはきっと俺の想いは届いただろう。これで名前はゆっくり眠れる。

また出会える日が来たら、今度は笑顔の絶えない幸せな毎日であればいいと心から願う。


「来世でも必ず名前を見つけ出してみせるよ」





ゆっくりおやすみ
110812
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