気付いたら私は見知らぬ林の中で座り込んでいた。はらはらと流れる涙に顔をうつ向かせていると、それまでは普通だった部屋の雰囲気が一瞬にして張り詰めた。何かが背中を這う感覚に身体が震え上がる。ひどい寒気に襲われ咄嗟に顔を上げれば、養分を失い葉が枯れ落ち痩せ細った木々が一面に広がっていた。空は真っ暗で街灯は一つも無く、けれど点々と宙に浮かぶ朧気な青白い光のお陰で僅かだが辺りを確認出来る。
ここは、一体…?寒さと恐怖に震える身体を抱き締めた。さっきまで確かに祖母の部屋にいたはず。写真の冷たい感触も覚えてる。夢、だろうか。もし気味の悪い夢なら覚めてと強く願う。しかしこれが夢じゃないということは何となくだが感じていた。


「誰か」


自分でも驚く程弱く小さな声だった。見知らぬ場所に迷い混んでしまった不安や、自分以外に誰もいない恐怖、寂寥感。様々な感情に精神的に押し潰されそうだ。


「人を、探さないと、」


無意識の内に両足を叱咤して立ち上がっていた私は、行く宛も無いまま出口の見えない林の中をひたすら走った。制服に付着した砂も払わず靴下が汚れるのも気にせず何度も転びそうになりながら、同じ道が続いていることに気付かないふりをして一心に。早く安心したかった。誰でもいいから人がいてくれれば、私は。
走り続けたせいで喉が焼けるような痛みを伴う。身体は水分を欲しているというのに、次々と溢れ出る水はどこから湧いてくるのだろうか。本当は泣いている場合じゃないのに。心が弱っているいまの私に、こんなの耐えられるはずがない。走る速度はゆっくりと減速し、やがて力を失ったかのようにがくりと膝が崩れ落ちた。膝がジリジリと痛む。どうやら地面にぶつかった衝撃で膝を擦りむいたらしい。その痛みが、これが現実であることを物語っていた。けれどそんなのどうでもよかった。
ここはどこなの。私に何をしたいのよ。私を家に返して。帰りたいだけなのに……!


「そこで何してる」


止まらない涙にてのひらで顔を覆った時、頭上から『誰か』の声が降ってきた。厳しさを孕んだ声色ではあるがここに来てからずっと求めて止まなかったそれに、やっと見つけた、と顔を覆っていた手を下ろす。開けた視界は相変わらず薄暗く未だに恐怖はあるものの、座り込んで泣きじゃくる私を見下ろす金髪の男性に心底安堵し、それにまた余計に涙が溢れたのであった。


第一章・第二話(13'0514)
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