話が聞きたくて訪れたというのに実際に何を聞けばいいのか分からず、申し訳ないけれど赤司さんと黄瀬さんに一から説明をお願いすることにした。


まず始めに妖の世は人間界と対を成す場所であることを改めて教えてもらう。それは私も既に習知している内容だったので簡単に済ましたようだった。
陰の世界改め、妖の世には、その名の通り妖怪しか存在いない。だがしかし私のように何らかの原因により人間が迷い込んでしまう場合があるのだと言う。原因というのは、赤司さんが繋いだ扉(道とも呼ばれている)が様々な理由や条件から自然に繋がってしまうことだ。また、霊感が強い人間が自ら扉を開いてしまうケースも少なくはないらしい。


「信じられない話だと思うだろう」


どう返事するか悩んで小さく頷いた。この時点で既に非科学的過ぎる話に脳が追い付かないのだ。頭痛がしてきそうな気がしてそっと米神を押さえる。
しかし、私がどう思おうが私自身が体験してしまっているのだから否定なんて出来やしない。偽りようのない真実。二度通った道も、全てを知っているという赤司さんも、私の姿を消したあの能力も。


「全てこの世では日常茶飯事に起きているんだよ。…今はまだ難しいだろうが徐々に慣れていってほしい」


だからこそ、これからこの非日常に慣れていかなくてはならないのだ。私が知るのはほんの一握りの能力で、まだまだ驚くべき程の能力がたくさんあるのだろう。ひとまず小さく頷いた。


「あの、一ついいですか?」
「なんだ?」
「赤司さんは黄瀬さんの主だと聞きました。黄瀬さんもとても身分の高い方とお見受け出来ます。あなた方は、この世界にとって一体どのような存在なんですか?」


ずっと気になっていたことを思いきって聞いてみる。その問いに答えてくれたのは黄瀬さんだった。


「赤司っちは妖の世を統べる者。この世界で一番偉い妖怪っス」
「いちばん、偉い、妖怪…!?」


黄瀬さんの主というだけあってそれはそれはやんごとなき身分の方なんだろうなとは思っていたが、まさか世界を統べるお方だったなんて…!しかも一番偉い妖怪さんに私は説明をさせていたのか…。


「そんな大層な存在ではないよ。ただ僕は治安を守り、正しい方向へ導き、この世界を存続させているだけに過ぎない」
「妖怪の世界にも治安の良し悪しがあるんですね…」
「ああ。妖怪は特殊な力を持っている故に争い事が絶えない。ここら一帯は涼太たちのお陰で安定してはいるけど、いつ何が起こるか分からないからね」
「黄瀬さんが?」
「そうっスよ。俺を含め5人の妖たちが赤司っちの屋敷を中心にその周りの区域を任されてるんス」
「涼太の区域は千年近く大きな争いも無く治安も安定している。涼太の人柄もそうだが、先代が荒れていた過去もあって彼を支持する声は大きい」
「そうなんですか…。だからあんなにも慕われてるんですね」


そういえば、黄瀬さんは外を出歩くと何度も妖怪に声を掛けられていた。それは黄瀬さんが区域の偉い人だからじゃなく、黄瀬さんという人物を慕っているからこその行動なのだろう。黄瀬さんと言葉を交わす彼らの目がそれを物語っている。私はまだ彼のことをよく知らないけれど、千年もの間ずっと治安を守ってきた彼ならばそれも頷ける気がした。


「…って、千年?」
「どうかしたかい?」
「えっと、お、お二人は一体いくつなんですか…?」


千年、って。


「さあ。もう覚えてないな」
「俺はここに千年前くらいに来たから、大体それくらいっスね」
「………………」


『覚えてない』『千年前』
…妖怪の寿命というのは人間とは比べ物にならないようだ。長生きなのか、老いというものがないのか。はたまた年齢という概念がないのか。

本日二度目の頭痛にまたもや米神を押さえるのだった。


「どうしたの?頭痛いんスか?」
「いえ……何デモナイデス」


第二章・第十六話(13'0824)
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