寝込んでいる間、一人になっていつも考えていたことがあった。この世界のこと、彼ら妖と呼ばれる存在、私がここに来た意味。私なりにいろいろと考えてみるが、しかしどの答えも同じ結論に至ってしまう。何故なら私には答えを導き出せる程の知識がないからだった。そう。私は何も知らないのだ。
正直、今すぐに彼の望むように様々なことを理解していくのは難しいと思う。でも知識を身に付けることは理解に繋がる。だから私のやるべきことは一つ。


「黄瀬さん、この世界についていろいろ教えてくれませんか」


彼のためだけじゃない。自分のためにも私は知ってなくてはならない。
これからは泣くだけじゃなく、強く在りたいから。



▲▽



「それで僕の所へ来たのか」
「だってこういうのはいつも赤司っちか黒子っちの役目じゃないっスか」
「それもそうだね」


あれから間もなくして用意された朝ご飯を食べた。久しぶりのまともな食事にごくりと喉が鳴ったのを黄瀬さんに聞かれてしまい、けらけらと笑われてしまった。食事中は他愛もない話で盛り上がった。好きな食べ物の話や動物の話など、小さなことからくだらないことまで。いつだったか彼に対して抱いた恐怖心は、時折見せる少年のような笑顔にすっかり消えて無くなっていた。


「久しぶりだね、名前」
「赤司さんこんにちは。お久しぶりです」


少し休んだ後赤司さんの家に連れてこられた。またもや赤司さんは私たちが来るのを知っていたようで座布団が二枚用意されていた。赤司さんの屋敷に来たということは、説明は彼がしてくれるのだろうか。こういうのは赤司さんやクロコッチさん?が得意らしい。クロコッチさん。初めて聞く名前だ。


「少し痩せたようだが、食事はしっかり摂っているようだね」
「そんなことまで分かるんですか?」
「それぐらい分かるさ。君の顔色を見ればね」


今日の私は血色がとても良好らしい。赤司さんは「初めてこの屋敷に来た時とは大違いだよ」と笑った。さぞかし酷い顔だったのだろう。すぐに帰るつもりだったとは言えとんだ醜態を晒してしまうなんて…。


「あの時と同じだね」
「え?」
「あの日、君は今日と同じように涼太に連れられ、僕に帰る方法を聞きに来た。紆余曲折を経て君の望まぬ結果になってしまったが、自分なりに理解しようとこうして再び僕を訪ねたんだろう?」


力強く頷く。泣くだけしか出来ない弱い自分が嫌いで強くなりたいと心から願った。黄瀬さんが望んだからじゃない。自分の意志でこの世界に触れてみようと思った。


「…不思議だな」
「……?」
「初めて見た名前は心を負の感情に覆いつくされていたが、今の君からそれが一切感じられない。むしろ、凛々しく見えるのは何故だろうな」
「そんなことないです。実際は臆病で弱虫ですから」
「それは君の思い違いだ。今だって自ら立ち上がり本気で歩み寄ろうとしてくれているのがとてもよく分かる」
「それは…何もせずにはいられなかったので…」
「それでもさ。だから僕も君の思いに全力で応えようと思ったんだ」


これから知る全てを受け入れられる自信はない。けど出来るだけ多くを理解したいのは本当。強くなれるかなんて今はまだ分からないし、黄瀬さんの言うようにきっと泣いてしまう日もあるだろう。そうなったとしても何も知らないまま泣いていた昨日までとは違う毎日を過ごせたらいいなって思う。


「良かったっスね」


黄瀬さんが笑い、差し出された赤司さんの手を握る。


「改めて、これからよろしく、名前」
「こちらこそ、よろしくお願いします」


私がここに来た意味が必ずあると信じて、私は前だけを見る。


第二章・第十五話(13'0818)
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