大好きな祖母が亡くなった。私が幼い頃から重い病気を抱えていたから、いつその時が来てもおかしくないと腹を括っていたはずなのに、どんな形であれ平等に訪れる未来を理解したうえで全てを受け入れられる程そんな立派な大人にはなれなくて。突きつけられる現実にただただ涙があふれてくる。わかっていた、知っていた。命は儚く、脆弱であると。だからこそ事実を認められず、いつまでも、たとえ肉体だけになったとしても縋り付いていたいのだ。そして肉体が消えれば視えない魂を探し求める。こうして残された者は悲しみと絶望の淵をさまよい続けるのだろう。心が救われない限り、永遠に。


「ほら名前。お婆ちゃんの所持品の整理手伝って頂戴。お母さん他にもやることあるんだから」


ぼんやりと祖母の写真を眺めてたらいつの間にか葬儀は終わっていた。母に肩を叩かれて、ようやく家に帰って来ていたことに気付く。私がいたのは祖母が使っていた部屋だった。忙しなく動く母は私の心中を察してか、動く様子のない私にそれ以上何も言わずどこかへ行ってしまった。目の前の小さな仏壇の中で祖母が笑っている。生前と変わらない朗らかな笑みにそっと手を伸ばして触れた祖母は病院で触れた時と同じくらい冷たい。ただあの時よりも悲しく感じるのは、これが祖母の肌ではなく祖母を型どる無機質な物質だからだろう。どちらにせよ祖母はもうこの世にはいないのだからどれも同じだ。


「ねえ、お婆ちゃん。どうして神様はお婆ちゃんを選んだの」


どうしてお婆ちゃんが死ななきゃならなかったの。
まるで子供染みた屁理屈。以前祖母は「人はそれぞれ違った道を歩くけど、最後には必ず一つの場所へ辿り着く」と言っていた。当時幼かった私は意味を理解することは出来なかったけど、今は痛いくらい理解出来る。命ある者には必ず死が訪れる。早いか遅いかの違いだけで、人の死は理屈じゃ到底言い表せない。
それでも私は祖母には生きてて欲しかった。もっとしてあげたい事がたくさんあったのに。

その事実だけは変わらない。


「今日ね、私の誕生日なんだよ」


十八の誕生日が祖母の命日へと変わった。別にそれでも構わないから、いつもみたいに笑って「おめでとう」って言って、少し淋しそうに「プレゼントはないけど堪忍ね」って頭を撫でて欲しかった。


「誕生日おめでとう、って言ってよお婆ちゃん…ッ!」


それだけで良かったのに。



陰影立ち込める部屋の空気が徐々に重くなってゆく。誰も知らない世界への扉が、いま静かに繋がろうとしていた。


序章・第一話(13'0511)
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