「ねぇ、名字さんと黄瀬くんって幼馴染みって本当なの?」 さつきと食堂でお昼を食べていると見知らぬ女子数人が話し掛けてきた。カラーからして同い年。 見た感じ派手なグループのリーダーらしき女の子が敵意剥き出しで私の傍に立っている。せっかくさつきと楽しく談笑してたってのに。 「はあ…まぁ、そうですね」 入学して間もない頃にはよく騒がれた。クラスの子はもちろん、隣のクラスや先輩たちにも何度も「幼馴染みか」と問われてきた。 全校に知られているんじゃないかというくらい、名前と黄瀬涼太の幼馴染みという肩書きだけが一人歩きしてしまっていた。 二学期も半ば。まだそんなこと聞いてくる人がいたなんて。 「こんなのが黄瀬くんの幼馴染み?なんだ、普通じゃん」 くすくすと笑う女の子たち。 きっとこの子は涼太に好意を抱いてるんだろう。そして、幼馴染みの私が邪魔であると。 それが言葉、視線、態度から、ひしひしと伝わってくる。 「気付かないの?釣り合ってないって」 「ちょっと!黙って聞いてれば、」 「いいよ、さつき」 さつきはまだ納得のいかない表情をしていたけど、いいから、と目で制した。 私はそうだねと頷いた。 私と涼太は他人から見たら全然釣り合ってないのかもしれない。 でも、 「涼太が好きで、幼馴染みの私が邪魔なのは分かるよ。でも私は涼太といたいから一緒にいるの」 「幼馴染みだからって調子乗らないでよ!」 「乗ってなんかないよ。あと、貴女みたいな人を涼太は絶対に好きになんてならないよ」 「な、――!!」 「そうゆうことっス。だからさ、」 そこで突如私を庇うように涼太が目の前に立った。女の子たちは涼太の登場に戸惑いを隠せない様子で、あの、とかその、とか口ごもっている。 「分かったならさっさとどっか行ってくんないっスか?」 「あ、わ、私……」 「いいから、行けよ」 涼太の低い声に女の子は泣きそうな顔をしてその場から立ち去った。 「ごめん、名前」 「なんで涼太が謝るの?」 「だって今の…」 どうせ私が絡まれたのは自分のせいだとか思ってるんでしょ?涼太の考えてることなんてすぐ分かる。 「涼太のせいじゃないよ」 「でも、」 確かにいまのは涼太と無関係とは言い切れないけれど、涼太に好意を抱く子なんてたくさんいるし、そんな子たちから見れば私は邪魔な存在だ。 だから、誰が悪いとか悪くないとか、そんなんじゃない。 「じゃあ少しでも悪いと思うなら今度買い物付き合ってよ。デートしよう」 「デート?!それ俺が嬉しいけど?!」 「うん、行こう」 「おっし!名前の行きたいとこ全部行こう!」 「はしゃぐの早すぎ」 多分、涼太と付き合っていくってことは、今日みたいなのがこれからいっぱいあるかもしれないってことだ。 涼太は優しいから、自分のことのように心を痛めるだろう。それでも私は、許す限り涼太と一緒にいたいんだ。 「黄瀬くんってわんこみたい」 「私もそう思う」 「お互い幼馴染みには苦労してるね」 「…ごめん、青峰よりマシだわ」 「あれは暴れ馬だからなー」 そのために私に出来ることは、いったい何だろう。 12'0919 |