01

「名前!おはよー!」
「おはよう」
「今日も可愛いっスね!」
「そういう発言は目立つから止めようね?」
「え、なんで?いいじゃん、俺らカップルなんだし」


学校までの道を歩いていると突然後ろから涼太に抱き締められた、というか最早タックルに近いものをされた。先日晴れて私の彼氏となったモデルでキセキの世代なんて呼ばれている幼馴染みだ。
涼太はえへへと笑って私の横に並んで一緒に歩きながら肩に掛けていたエナメルバッグを反対側に掛け直して、空いた手で私の手を掴む。さりげなく恋人繋ぎをしてきたことに照れながらもぎゅっと握り返すと、締まりの無かった表情が更にだらしなく弛んだ。頬を僅かに染め上げ、にこにこと私を見下ろす。まだ慣れない行為に私も緊張してしまい、それを隠すようにふいっと顔を反らした。


「私が恥ずかしいの」
「なんで?みんな俺らが付き合ってるの知ってるんだから恥ずかしがる必要ないのに」
「あっ、あれに関してはまだ許したわけじゃないんだからね!」
「ええ?!まだ怒ってるんスかぁ?」
「当たり前でしょ!」


先月の卒業式の日、ついに私たちはもどかしい関係から抜け出した。ようやく想いが通じ合えたことはとても嬉しくて、あそこまで幸せな気持ちになれたのは初めてだった。涼太と付き合うからには相応の覚悟が必要なのは理解しているし、酷い嫌がらせを受けるかもしれないことも危惧している。
しかし涼太はそれを良しとはしない性格故に、先手と称し四月発売の雑誌の取材で恋人がいると堂々と宣言したのである。しかも事務所公認で。それに私の個人情報も流出。黄瀬涼太の幼馴染み、帝光中学元バスケ部マネージャー、海常高校エトセトラ。安息の日々がガラガラと音を立てて崩れ去った瞬間だった。


「そのことに関しては何回も謝ったじゃないっスか〜」
「私の安息を返してくれるなら許す」
「それなら大丈夫。名前に手出す子なんていないよ。ちゃんと釘さしておいたし」
「…ファンは大事にしてよ」
「わかってる。名前のそういうとこ大好きだよ」
「う…ま、また公共の場で…」


確かに高校に入学して一週間経つが、嫌がらせの類いは一切受けていない。それどころか視線を浴びることもほとんどなく、当初望んでいた平穏な学生生活を送れている。これは彼の言う『釘をさした』お陰なのだろうか。思っていた修羅場もなく、かと言って私たちの関係を知らない人は一人もいない。しかし何かしら起こるだろうと予想していたことは何一つとして起こっていない。それが逆に怖いのだけど。


「ほら、行くっスよ」


いつの間にか立ち止まっていた私の手を涼太が引っ張る。遠くから羨望の視線を感じ、「いいなー」という声が耳に届いた。


「今日から本入部っスよね?」
「うん」


一週間の仮入部期間が終わり、今日から本格的に部活に入部することになる。スポーツ推薦で入学した涼太は入学式の日からすぐに部活に参加していたので、この日をずっと楽しみにしていた。それはもううるさいくらい。


「俺のことちゃんと見てね!」
「マネージャーの仕事で忙しいから無理かも」
「えっ!?」
「でも!ちゃんと練習するんだよ?」
「うぅ…はいっス」


と厳しく言いつつも、誰よりも一番近くで涼太のバスケを見れると思うと胸が弾む。
これから三年間。私は彼を、海常高校を全力で支える。もう一度、涼太にはあの頃のように笑顔でバスケをやってもらいたいから。


13'1024
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