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受験当日。試験を受けるべく海常高校に向かう電車に乗るため最寄りの駅に来ていた。他の子よりも遅い出だしとなってしまったが、親を始め担任や友人たちの応援のもとなんとか乗り越えついに今日という日を迎えることが出来た。寒さの厳しい一月の空はとても澄んでいて、背中を押してくれているようだ。笑顔で送り出してくれた両親にも力をもらった気がして実に心強い。


「ここでいいよ」


改札前で私は後ろを振り返る。涼太が今日の為にわざわざ仕事を休んでお見送りに来てくれたのだ。最初は変装もせずに外出することに些か不安は感じたが、寒さで鼻を真っ赤にしながらへらへら笑っている姿はあの人気モデル・黄瀬涼太には到底見えまい。


「お見送りありがとう」
「俺がしたかっただけっス」
「それでも嬉しい」
「へへっ」


照れ臭そうにマフラーに顔を埋める涼太。黒いマフラーは彼の金髪を更に際立たせる。ただの見送りだというのにお洒落な服装にはさすがモデル…と思ってしまった。普段はモデルであることを全然意識しないからこういうちょっとしたことで改めて実感させられる。真面目な顔するとやっぱりかっこよくて、女の子たちの視線が次第に集まり始めていることに気付く。「あれってキセリョじゃない?」「ほんとだ!ちょうかっこいい」「一緒にいる子だれ」「私知ってる。多分幼馴染みって子」「へー」嫌でも聞こえてくる声に居心地の悪さを感じ目を伏せる。噂にならなきゃいいけど…なんて思っていると、ふいに誰かが私の手を持ち上げる。もちろん涼太だ。目を細めて淡い微笑みを浮かべ私を見下ろす。色っぽくて不覚にもドキッとしてしった。安心させようとしてくれているのだろう、その優しさに心が暖かくなる。もう女の子たちの声は聞こえなかった。


「名前」
「ん?」
「名前なら大丈夫」
「うん」
「あんなに勉強頑張ったんだから絶対合格出来るよ」
「うん」
「それで、一緒に海常行こう」
「…うん!」


文字通り私の背中を押したのは、両親でも澄んだ空でもない、大切な、大好きな人だった。名前なら大丈夫。いつもその言葉が励みになる。踏み出す一歩がとても軽い。緊張はしていない。やれるだけのことはやったんだ。あとはそれを全て出しきるだけ。


「行ってきます」
「行ってらっしゃい」


大丈夫。私なら、出来る


13'0422
急に短くなってサーセン。
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